「ちょっと体調が悪くて……」「なんか最近体が……」こんな悩みを抱えているビジネスマンは多いはずだ。だが忙しい企業戦士のみなさんのこと、気軽に休暇を取得して病院で1日じっくり検査、というわけにはいかないだろう。大抵、「寝れば治る」で、放っておいてしまう人が多い。
だが、ちょっと待ってほしい。その病気になる直前の“病気もどき”こそ体のSOS信号なのだ。この連載では看過することのできない”病気もどき”について、医療ジャーナリストの安達純子氏が解説する。
胃腸の不調は、食物繊維の不足から
夏バテで食生活が乱れると、便秘や下痢に見舞われがち。食事量が減って運動不足が重なると、腸の働きが悪くなって便秘になりやすいという。一方、冷たい飲料などを飲み過ぎれば下痢になりやすい。中には、排便のない状態が長らく続き、ある日、通勤電車のエアコンで身体が冷やされた途端に、急にトイレに行きたくなって冷や汗をかく人もいる。そんな夏場の腸の不調は、現代人に起こりやすいそうだ。
「小林メディカルクリニック東京」(東京都港区)の小林暁子院長が警鐘を鳴らす。「人間は、胃で食べ物を分解して小腸で栄養分が吸収し、大腸で水分と栄養を再吸収して残ったものが便になります。ところが、食生活の乱れに加えて、夏場に汗を多くかくと、水分が失われて便はカチカチの状態になってしまう。それに関与しているのが、食物繊維の不足です。食物繊維は、便のつなぎの部分でスポンジのような役割を果たし、ちょうどいい形に整えています。しかし、近年、食物繊維の摂取量は減る一方で、便のつなぎの部分がないゆえに、硬くなって便秘になったり、水分の再吸収がうまくいかずに下痢を起こしやすいのです」
厚労省の「平成23年国民健康・栄養調査報告」によれば、1日の食物繊維の平均は13.7グラム。摂取目標は男性20グラム、女性18グラムとされているが、それよりはるかに少ない。
米国のケロッグ社の研究によれば、米国成人の食物繊維の1日摂取量を25グラムまで増やすと、年間の医療費を127億ドル節約できると報告されている。食物繊維の摂取量が少なく、腸内環境が乱れていると、身体へ悪影響を及ぼす恐れがあるのだ。腸の不調は、がんが潜むリスクも伴うからご用心。厚労省の「人口動態」によれば、大腸がんは女性のがん死因第1位、男性も肺がん、胃がんに次ぐ第3位となっている。
「野菜」イコール「食物繊維」ではない!
夏場の便秘や下痢を解消するには、食物繊維を意識して取ることが大切だ。しかし、それが意外にも難しい。ダイエットを意識している人は、積極的にサラダを食べるだろう。昼食や夕食に、グリーンサラダや野菜スティックなどを食べても、必要な食物繊維の量には到達できないことがある。
「野菜イコール食物繊維の量ではありません。1日25グラムの食物繊維を取る場合、レタスならば2~3個を丸ごと食べないとならないのです。また、食物繊維には、腸内細菌のいわゆる善玉菌のエサになる水溶性食物繊維と、便の硬さの調節などの役割を持つ不溶性食物繊維があり、どちらもバランスよく食べることが大切といえます」(小林院長)。
水様性食物繊維は、野菜、果物、海藻類などに多く含まれ、不溶性食物繊維は、根菜類、玄米、小麦のふすま、大豆などに多く含まれるという。玄米ご飯に、海藻類や野菜の入ったみそ汁、さらに、冷ややっこ、肉や魚を加えたメニューであれば、自然に食物繊維を多く取ることができるそうだ。
「世界的にも注目されている和食は、食物繊維の豊富なメニューが多い。便秘や下痢を繰り返す人は、和食を積極的に取り入れましょう。食物繊維は、腸内での糖質や脂肪分の吸収を抑制する働きもあるため、ダイエットにも効果的です。1日3食、和食というのが無理ならば、朝食には食物繊維の多く含むシリアルを活用してみてください。ヨーグルトと混ぜて食べると、善玉菌の働きを促し、腸内環境を整えることになります。シリアルは、外食へ出掛ける前に食べるのもおススメです。食物繊維によって脂肪などの吸収を抑えられるので、食べ過ぎの抑制につながります」(同)。
朝食をしっかり食べよう!
食事で食物繊維をたっぷり取り、腸内環境を整えるのが、便秘や下痢の解消の第一歩になる。とはいえ、そもそも朝食抜きという人もいるだろう。出勤時間のギリギリまで寝ていると、朝ごはんを食べる時間はない。夕食の時間が遅いと、朝起きたときに胃がもたれている場合もある。しかし、朝食抜きが、便秘や下痢に拍車をかけるという。
「人間の身体は、時計遺伝子(体内時計)のリズムによって、日中は活動的になり、夜はグッスリ眠るといった体調を整えています。それは、自律神経の働きも左右し、腸の働きにも影響を及ぼすのです。時計遺伝子のスイッチを入れるには、朝食をしっかり食べることが必要です」(同)。
朝食を抜いてしまうと、腸の働きが悪いゆえに便秘や下痢につながる。体調不良に加えて、エネルギー不足で集中力も欠如。調子が戻ってくるのは昼食後。加えて、体内時計が乱れていると、夜の寝つきが悪く、寝不足にもなりやすい。こんな悪循環を断ち切るには、朝食をしっかり食べるのがひとつの方法だ。
「米国の調査では、授業の1時間目の前に、学生に15分程度の運動をさせたところ、成績が上がったとの報告があります。朝は早めに起きて、ラジオ体操など軽く体を動かした後に、しっかりと朝食を食べる。すると血流や自律神経の働きが高まり、便秘や下痢の解消だけでなく、仕事のパフォーマンスも上がるでしょう。夏場は、外気の影響で自律神経が乱れやすい時期でもありますから、ぜひライフスタイルを見直していただきたいと思います」と、小林院長はアドバイスする。
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