水虫の原因が白癬菌(はくせんきん)というカビの一種であることは知られていると思いますが、日本では現在「新型水虫」なるものが感染者を増やしていることもご存知でしょうか。名前だけ聞くと、水虫が突然変異で進化したようにも思えるけれど…。
「新型水虫、と言われているのは『トンズランス菌』という白癬菌です。新型、といっても日本には今まで同じ型の菌がいなかったという意味であって、南北アメリカやヨーロッパでは以前から感染被害を出していた菌なんです。2000年頃から日本国内でも感染者が目立ってきました。主に皮膚の接触により感染するため、擦り傷が出来がちで皮膚同士の接触が多い柔道やレスリングなどをやる人の間で集団感染が増えているんですよ。白癬菌には棲む場所の異なるいくつか種類があり、また感染部位によって呼び方が変わります。本来は足につく白癬菌を水虫というのですが、トンズランス菌は足の裏よりも上半身と頭部を好むのが特徴。感染力も強く治りにくいんです」
そうご回答いただいたのは、順天堂大学練馬病院の皮膚・アレルギー科の比留間政太郎教授。直接皮膚同士が触れずとも、抜け毛や垢などに半年は菌が生きていて感染する可能性があるというから始末が悪い。いったい、どのような症状が出るのでしょうか?
「顔・首・その他上半身の部位に感染した場合、直径1~2cmの円形でカサカサしたピンク色の発疹を作ります。中央部が先に治癒するので、患部が環状に見えることもありますね。また、頭皮に感染した場合、発疹が出来た後ふやけたかさぶたになり、フケが多く見られるといった症状になることが多いです。さらに悪化すると頭皮が盛り上がり、膿が出て脱毛に至ることもあります。実はこの菌の名前は、頭部に脱毛を起こすことに関係し、それはキリスト教の聖職者が頭を剃ることを指す『トンスーラ』という言葉に由来するんですよ」
頭皮が膿んで毛が抜ける…それは困ります。感染したらどうすればいいのですか?
「市販薬でも直すことは出来ますが、完治の判断は一般の方には難しいでしょう。菌をまだ持っていても、『もう症状は消えた』と薬をやめてしまい、知らないうちに大量に菌を散布してしまうことになることが多いと思います。実は、これもこの菌が従来日本にいた白癬菌と違うやっかいなところ。場合によっては内服薬も必要になりますので、怪しいと思ったら初めから専門医にみていただくことをおすすめします」
ただ、皮膚同士の接触で感染するからといって過剰に心配することはないようです。たとえば、満員電車に乗れば他人と肌を擦り合わせてしまうなんて状況は起きてしまいますが、さすがにその程度では感染しないとのことでした。
読者の方には柔道など格闘技をやっている人はそうはいないかもしれませんが、折しも中学校授業では武道が義務化され柔道を学ぶ人口が増えるなど、トンズランス菌にとっては感染拡大の“チャンス”が到来しているのがちょっと気になるところ。比留間先生も「まだ日本に入ってきて間もないので感染増加といっても限られた範囲だけれど、これからどうかわからない」といっていました。心当たりのある方は、専門医に相談することをおすすめします。
(宇都宮 雅之)
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