長崎県新上五島町で今年1月に自殺した同町立奈良尾中3年の松竹景虎(まつたけかげとら)君(15)が、同級生からいじめを受けていたことが遺族などへの取材で分かった。松竹君は2学期から無料通話アプリ「LINE」(ライン)を使って複数の同級生に自殺意図を伝え、一部の同級生の保護者も知っていたが、誰も両親や学校に伝えなかった。両親は「なぜ教えてくれなかったのか」と話し、真相究明を求めている。
父裕之さん(50)、母稚代香さん(54)らによると、松竹君は3学期初日の1月8日午前7時20分ごろ、自宅を出た。学校から登校していないとの連絡を受けた両親が捜し同9時10分ごろ、自宅近くの町営グラウンドのトイレ付近で、自作のロープで首をつっているのを発見した。死亡が確認され、死因は窒息死だった。
学校は翌9日から複数回、同級生20人へのアンケートや聞き取り調査などを実施。1月下旬、町教委が両親に「いじめは見つからなかった」と報告した。
しかし3月下旬、一部の同級生が両親に「景虎君はいじめを受けていた」と証言。クラス内で「うざい」「嫌い」などの悪口を日常的に言われ、「自分はみんなに嫌われている」と悩んでいたという。
両親が同級生などから聞いた話では、松竹君は昨年11月からラインで「死ぬ前にやることが3つ」などと記述し、自殺前日には「死ぬ準備はできている」、当日の午前4時過ぎには同級生に「さようなら」などと送っていた。
松竹君は携帯音楽端末でラインを利用。複数の同級生が自殺をやめるようメッセージを送っていたが、松竹君の両親や学校には知らせていなかった。一部の同級生は保護者のスマートフォンでラインを利用しており、自殺を巡るやり取りを見ていた保護者もいたが、やはり松竹君の両親や学校に知らせなかった。
町教委は今月7日、両親に「いじめと思われる言動は見られるが、自殺につながっていると断定できない」と報告した。
父裕之さんは「景虎が自殺しようとしていることを知っていたのに、死ぬまで誰も私たちや学校に教えてくれなかった。それこそが、最大のいじめではないか」と語った。
◇LINE
スマートフォン向けの通信アプリで、携帯音楽端末などでも利用できる。通話、メール交換、特定のグループ内のチャット機能などが無料で利用できる。2011年6月のサービス開始以来、登録数は世界で4億人を突破した。
◇防止法成立1年 学校側対策せず
いじめ自殺問題を巡っては、2011年の大津市立中2男子生徒の自殺事件で、市教委の隠蔽(いんぺい)体質などが問題視され、再発防止を図るため昨年6月、いじめ対策では初となる「いじめ防止対策推進法」が成立。9月に施行された。
同法は、いじめによる自殺の疑いがある重大事態が発生した場合、学校や教委が速やかに調査組織を設置して事実関係を調べ、結果を遺族側に適切に提供することを規定。調査組織は平時から設置し、第三者が参加し公平性・中立性の確保に努めるとしている。
また、学校に対して、いじめの早期発見と迅速な対応のため、教職員や福祉などの専門家によるいじめ防止対策組織の常設を求めており、重大事態にはこの組織が母体となり、必要に応じて適切な専門家を加えて調査するとされている。
今回の事案が起きた長崎県新上五島町立中は、こうした防止対策組織を設置していなかったという。
同法が定める重大事態への対応やいじめ防止の取り組みは自治体や学校で差があるとみられ、文部科学省は法の実効性を把握するための全国調査を始めたばかりだった。
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