食品に含まれる「トランス脂肪酸」を巡る問題が再び持ち上がっている。数年前から危険性が指摘されているが、まだそれほど一般に広まっているとはいえない。本当に危ないのか。
トランス脂肪酸は、植物油に水素を添加して固体化・粉末化していく過程で生成され、マーガリンやショートニング、クッキーなどの焼き菓子、揚げ物に多く含まれている。
過剰に摂取した場合、LDL(悪玉)コレステロールを上昇させ、HDL(善玉)コレステロールを低下させることが分かっている。動脈硬化を促進させ、心筋梗塞や狭心症といった心臓疾患のリスクを高めてしまう。
他にも、気管支ぜんそく、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎といったアレルギー疾患の疾患率を上昇させたり、認知症やパーキンソン病を引き起こすという報告もある。
血中の中性脂肪が増加することでインスリン抵抗性が増し、高血圧、糖尿病、心臓病の原因になる可能性も指摘されている。
東北女子大教授の加藤秀夫氏(時間栄養学)はこう解説する。
「各国のさまざまな研究によって、トランス脂肪酸が体に悪影響を与えることははっきりしています。悪さはしても、プラスに働くことはない。体には必要がないものなのです。すでに米国では食品への使用が禁止されていて、欧州では100グラム当たり2グラム以上のトランス脂肪酸を含む油脂の国内流通を禁止している国もある。南米やアジア各国でも食品への含有量表示を義務付けています」
■食品への表示義務化を再検討
WHO(世界保健機関)も、トランス脂肪酸の摂取を抑えるべきだとして、1日当たりの総エネルギー摂取量の1%未満とすることを勧告している。日本人の場合、1日当たりの総エネルギー摂取量を2000キロカロリーとすると、トランス脂肪酸の摂取量は2グラム未満が目標値になる。
だが、日本ではいまだに食品への表示が義務付けられていない。
「09年から何度も検討されていますが、そのたびに見送られてきました。<日本人の1日の平均摂取量は0.9グラム前後で健康への影響は少ない>というのがその理由です。しかし、食生活が大きく変化して、いまは若者を中心にトランス脂肪酸の摂取量は大幅に増えています。注意が必要です」(加藤教授)
今年4月から内閣府消費者委員会で再び表示義務化が検討されているが、結論が出るまで時間がかかるのは間違いない。
食品への表示が曖昧な以上、自分の身は自分で守るしかない。横浜創英大名誉教授の則岡孝子氏(栄養学)は言う。
「トランス脂肪酸は、マーガリンとショートニングに多く含まれています。マーガリンの中には、100グラム当たり10グラム以上もトランス脂肪酸が含まれているものがある。ショートニングは、ドーナツ、クッキー、ケーキ、パン、スナック菓子などを製造する際にバターやラードの代用品として使われています。食品の原材料表示をチェックして、『マーガリン』や『ショートニング』という記載があるものはなるべく避け、動物性油脂のバターを使っているものを選ぶのがいいでしょう」
他にも、植物性油脂を使ったホイップクリームや、コーヒーに付いてくるコーヒークリームには、トランス脂肪酸が多い。ファストフード店の定番商品であるポテトフライは、Mサイズ(135グラム)で4.5グラムものトランス脂肪酸が含まれている。植物性だから体によさそう…なんてイメージは勘違いなのだ。
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