缶詰ブーム到来か--。東日本大震災以降、保存食として見直される一方、お酒のつまみに缶詰を提供する「缶詰バー」や1缶5000円を超える高級缶詰も登場。レトルト食品に押され減少の一途をたどっていた国内生産量は、最新の統計で32年ぶりに上昇に転じ、人気は復調しつつある。【飯田憲】
「会社帰りの若い女性から中高年のサラリーマンまで客層は多彩です」。2010年12月にオープンした立ち飲みの缶詰バー「キンコンカン」(横浜市中区)の川崎直子店長(45)は確かな手応えを感じている。
コンビーフ、さばカレー、つぼ焼き--。カウンターの棚に約100種類約1000点の缶詰が所狭しと並ぶ。7色のシールで商品の価格帯(300~900円)を区別し、注文を受けた川崎さんが温め、皿に盛りつけて提供する。
味付けや下ごしらえの手間が省け、保存も利くため選んだスタイルだが、開店すると、缶詰を懐かしがる世代から手軽な夕食を楽しみたい若い女性まで、幅広い層に受けた。
商品自体の進化も著しい。食品卸売り大手の「国分」(東京都中央区)が10年から販売する「K&K缶つま」シリーズは、発売当初の14品目から66品目(4月現在)まで増えた。「松阪牛大和煮」や「三重県産あわび水煮」など5000円以上する高級缶詰も話題を呼び、昨年は10年の5倍となる560万缶を売った。東京・銀座のバー「ロックフィッシュ」でも国分の商品を扱う。広報担当者は「『おじさんがカップ酒片手にさんまのかば焼きを食べる』というイメージではなく、グルメな客層をターゲットにレストランやバーで通用する商品を目指す」と意気込む。
「日本缶詰びん詰レトルト食品協会」(東京都千代田区)によると、飲料を除く一般向け食品缶詰の生産量は1980年には約95万トンとレトルト食品の約15倍もあった。しかし年々減少し、04年に逆転されると、11年は約23万トンとレトルト食品に10万トン以上水をあけられた。
ところが12年、缶詰の生産量は一転して32年ぶりに前年を上回った。同協会は「東日本大震災をきっかけに消費者の防災意識と備蓄需要が高まった背景もある」とみる一方「ツナやコーンなどの従来の中身に加え、おかずになる総菜タイプが増えた。自宅で安上がりな晩酌をする人も多くなったライフスタイルの変化を象徴しているのではないか」と分析している。
http://news.goo.ne.jp/article/mainichi/nation/20140516k0000e040214000c.html