■幼い子どもの心は不安でいっぱい!
幼い子どもは、新しいことを見たい、知りたいという「好奇心」のかたまり。同時に、「不安」のかたまりでもあります。面白そうな物を見て駆け出したと思ったら、ふっと不安になって、お母さんの姿を探して振り返る。初めて行く場所に興味を持つ一方で、ちょっと怖い目にあうと、手がつけられないほど泣きだしたりもします。
こうした不安は、世の中をよく知らず、経験が少ないことだけが原因ではありません。幼い子どもの脳は発展途上の状態にあり、大人のように物事を柔軟に考える力が育っていないからでもあるのです。
新年度に幼稚園に入園した子は、「ここはいや!」と不安になって泣き叫びます。知らないおじさんにあいさつされると、怖くなってお母さんの後ろに隠れます。大人だって、新しい場所には不安を感じますし、知らない人には警戒しますよね。でも、大人には物事を理性的に考えることができるので、「不安なのは最初だけで、慣れれば楽しくなるかも」「まずは話を聞いてみよう」などと、合理的に考え直すことができます。
このように、不安を感じたときに、いったん冷静になって考え直すような柔軟な思考は、ある程度成長していないと、発揮できるようにならないのです。
■「ものの道理」がわかるのは幼児期後期から
物事を柔軟に考えられるのは、理性が活発に働いているため。理性があるからこそ、私たちは人と穏やかにコミュニケーションをとり、相手の気持ちや道徳を理解し、すぐに逃げ出したり攻撃したりせず、冷静になって考え直すような人間らしい行動をとれるようになるのです。
こうした理性は、幼児期後期頃から育っていきますが、本格的に発揮できるようになるのは、せいぜい学齢期に入ってからです。
一方、幼児期前期までの子どもは、ほしいものを見ればすぐに手を出し、イヤなことにはひっくり返って抵抗し、怖いと思うと泣き叫んで逃げます。このように、原始的な欲望や衝動に突き動かされて、感情を所構わず露わにするのがこの時期の子どもです。これは、脳が発展途上であり、状況に応じて我慢したり、立ち止まって考え直したり、といった理性的な対応がまだできないからなのです。
■激しい感情の表出を叱り続けると?
こうしたむき出しの欲求や激しい抵抗を「問題行動」と見なし、頭ごなしに叱ってばかりいると、子どもの心は健全に発達できなくなってしまいます。
3歳くらいまでの子が激しい感情を表出するのは自然なことであり、「自分の気持ちに素直になっていい」という自己肯定感と、「他者に気持ちを伝えていい」という積極的な対人関係を身につけるためにも必要なことです。
ところが、「うるさい!」「わがまま言わないの!」と怒鳴られ叩かれて、無理やり制止され続けると、「素直に感じてはいけない」「気持ちを伝えてはいけない」と思い込んでしまいます。また「どうして我慢できないの?」「何度言ったらわかるの?」と問い詰めても、まだ物事を理性的に判断できるベースができていないのですから、意味がありません。こうした怒り方をしていると、「思ったことを素直に言うと、訳の分からないことを言われて怒られる」と萎縮してしまいます。
このような子どもは、一見「大人しい良い子」に見えますが、心の内では気持ちを抑圧した苦しみを抱え、後々になって心の病気や不適応行動として現れてしまうことも少なくありません。
■感情的になる子に必要な「大人の対応」
そこで、幼い子どもへの対応でとても大切なことは、素直に湧き出た欲望や衝動を「これがほしかったのね」「ここはイヤなのね」「怖かったんだね」と受け止めてあげることです。また不安で泣き叫ぶ子をギュッと抱きしめ、「大丈夫」と安心させてあげることです。
これは、子どもの要求をまるごと飲むことではありません。「ほしいものがすべて自分のものになるわけではない」「泣き叫べば希望が通るわけではない」というあきらめや我慢を、感情を受け止めてもらいながら、経験させることなのです。
爆発的に感情が露わになっても、受け止めてくれる人がいることで感情が落ち着きます。こうして、感情に振り回される幼さから一歩成長すれば、社会の中で人と協力しながらうまくやっていくことができるようになります。そのために必要なのが、この子どもの欲望や衝動を受け止める「大人の対応」なのです。
ちなみに、こうした「大人の対応」は、幼い子どもだけに必要なのではありません。学齢期や思春期の子にも、そして、大人同士でも必要です。不安や恐怖が煽られたり、怒りが湧き出て感情的になってしまうことは、誰にでもあります。でも、そうした感情が受け止められ、理解されると、感情はすっと落ち着き、冷静に物事を考えられるようになるのです。ぜひ、年齢を問わず身近な人同士で感情を受け止め合ってみてください。
文・大美賀 直子(All About ストレス)
大美賀 直子
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