鍋に火をかけることで発電できるため、湯を沸かしながら携帯電話の充電などができる「発電鍋」が注目を集めている。熱を直接電気に変える発電鍋を開発したのは大阪のベンチャー企業TESニューエナジーで、「ワンダーポット」の名称で売り出した。地震など災害時に役立つだけでなく、環境に配慮して太陽光発電を自宅の屋根に設置するといった消費者の動きにも適合できるとあって普及が期待される。
◆きっかけは東日本大震災
TESニューエナジーは2010年5月、独立行政法人産業技術総合研究所(産総研)の技術をもとに、二酸化炭素(CO2)削減に貢献するベンチャー企業として設立された。所在地は、大阪府池田市にある産総研の関西センター内で、主に工場などで熱として捨てられている未利用エネルギーを電気に変える事業を展開している。熱を電気に変える技術を持つのが特徴だ。
開発のきっかけは東日本大震災だった。TESニューエナジーの藤田和博社長は、11年3月11日にテレビ画面で見た東北の被災地の映像が自分を動かしたという。まだ寒い冬空の中、被災者が集めた木材をドラム缶に入れて暖を取っている姿が目に留まった。この光景を見た藤田社長は「あの火で何かできないか」と考えた。
当時、多くの被災者は安否情報を携帯電話で確認していたが、電気が不通になった地域では携帯電話のバッテリーを充電できず、携帯電話が使えなくなっていた。そこで、藤田社長は「温かい飲み物や食べ物を作っている間に携帯電話の充電ができないか」と思い、自社の熱電技術を活用すれば、このイメージを具現化できるかもしれないと直感した。早速、震災当日の夜に開発を開始した。3カ月ほど試行を繰り返し、6月上旬には完成させて販売にこぎ着けた。
発電鍋は、鍋底に熱発電板を組み込み、火で熱すると、水との温度差で電圧が生じる仕組みだ。鍋底の外側に取り付けた熱発電板は鉄のカバーで覆った。厚さは、主力商品である容量1リットルタイプ(深さ9.3センチ)の場合、6~7ミリ程度となる。
◆温度差で電圧発生
鍋の中に水を入れた状態で、火にかけると熱が発生、沸騰してできたお湯は約100度になる。一方、直火があたる鍋底は550度まで上昇する。熱発電板にある電子は、高温側から低温側に移動する特性を持つので、電子が流れて電気になる。発電した電気を導線で取りだして鍋の取っ手まで送り、取っ手の先端に取り付けた出力口にUSB充電ソケット用のケーブルを差し込む。こうして携帯電話の充電が可能なる。
容量1リットルの発電鍋で発生する電気は7ワットほどで、スマートフォン(高機能携帯電話)のフル充電までは約3時間かかるという。
発電鍋は今では、年間1500個ほど売れている。しかも国内だけでなく、電気が行き渡っていないウガンダなど世界16カ国にも輸出された。
容量1リットルの発電鍋「ワンダーポット7」の価格は1万4700円。ほかに3.5リットル、5リットルなどもある。専用の蓄電池もあるので、電気をためておくことが可能だ。
藤田社長は発電鍋について、「地震など大災害時の備えとして自治体などにも導入を働きかけていきたい」と話すが、個人が身近に実践できるエコグッズとして一層の浸透が期待されている。(佐藤克史)
http://news.goo.ne.jp/article/businessi/business/fbi20140216008.html