新潟県新発田市役所の食堂で見たことのないメニューを目にした。「天婦羅(てんぷら)ラーメン」。天ぷらそばの間違いかと思って頼んでみると、しょうゆラーメンの上にエビの天ぷらがのっていた。「味の未体験ゾーン」をさまよいながら、天ぷらラーメンの由来を取材していくと、さらなる謎が待ち受けていた。
ある市職員の情報をもとに、月岡温泉街の天ぷら屋「川柳」に入ると、天ぷらラーメンがあった。店主の川上美雄さん(65)は「お客さんに頼まれて作ったのが始まりで、冬場はベスト3に入る人気。35年前の開店当初から売ってます」と話す。県外から食べに来る人もいるという。
天ぷらといえばそば屋。端緒を何かつかめればと期待して、市中心街で1932年に創業した老舗そば店「千代田そば店」を訪ねた。すると、店主の斎藤健治さん(67)が「40年ほど前に常連のお客さんが『ラーメンに天ぷらのっけて』と言って始まり、当初は裏メニューだったけど、いまは人気メニューです」と言って、天ぷらラーメンを出してくれた。
豚、鶏ガラ、煮干しで出したスープから油を極力取り除いたあっさりしょうゆ味と、揚げたての天ぷらの衣が合う。「天ぷらラーメンのスープには油を足さずにさっぱりさせ、逆に天ぷらの衣は少し厚めにして、コクを出しています」と斎藤さん。老舗は味に工夫を凝らしていた。
千代田から歩いて3分ほどのところにある食堂「喜楽軒」にも天ぷらラーメンがあった。店長の渡辺一人(かずひと)さん(49)は「熱い天ぷらの衣がラーメンのスープに入ると風味が出る。1+1が2じゃなくて、10になるんです」。
知人から「岩船に天ぷらラーメンがある」と知らされ、村上市の岩船港へ。港近くのラーメン店「玉寿し食堂」で丼の中身を見て驚いた。ラーメンの上にエビ天ではなく、イカ天がのっていたからだ。店主の浅野みゆきさん(57)は「20年以上前はかき揚げやエビ天でしたが、10年ほど前から、くせのないイカ天にしました。もう随分前から出しているので、由来はわかりません」と話した。
ラーメン評論家の大崎裕史さんに聞いたが、「天ぷらラーメンは全国にポツポツとあります。あっさりラーメンなのが共通点ですね。でも起源はわかりません」とのお答えだった。
由来もわからずじまいに終わった天ぷらラーメンを追う旅。千代田そば店に戻って天ぷらラーメンを食べていて、ふと疑問が浮かんできた。「何をかけて食べるか」。ラーメンならコショウだが、天ぷらそばと考えれば七味唐辛子だ。
大崎さんは「天ぷらラーメンはそばの流れから生まれたと考えられるから七味の方がいい」。一方、千代田店主の斎藤さんは「ラーメンだからコショウでしょう」。天ぷらラーメンは最後まで謎ずくめだった。(河野正一郎)










