古くから養生食として活用されたセリ

春の七草の筆頭は「芹」。漢方や民間療法でも、芹は活用されてきました。
セリは、湿地や小川などの水辺といった、水分の多い土地に自生する野草。名前の由来は、1ヶ所に茂り「せまり」合うように生えることから「せまり」、それが転じて「せり」と言う名前がついたと伝えられています。
そうした姿に生命力を感じ、先人たちは、春先の若草を摘んで食用にしたり、薬用に活用してきました。水田でも栽培し、万葉集などの多くの和歌などに詠まれたり、地名に名前がつくなど、私たち日本人には馴染みの深い野菜でもあります。
1月7日、春の野で若草を摘んで食べると万病を防ぐといわれ、七草粥に入れる「春の七草」は、「せり・なずな……」と筆頭に登場するのがセリ。独特の香り成分には、様々な作用があるといわれてきました。
漢方や民間療法での芹の効能は、発汗・解熱、利尿、食欲増進の作用があるとされ、リウマチや神経痛、風邪、高血圧等に役立つと考えられていました。
江戸時代に和歌の形式で食品の薬効をまとめた『和歌食物本草』では、芹について、「血を止め、精を養い、気力を増す」「食を進める」「酒後の熱をとるなどと記載されています。漢方では、茎や葉を乾燥させたものは生薬で、水芹(すいきん)と呼ばれ、煎じて服用されます。
セリの栄養価……ビタミン、ミネラル、抗酸化成分
セリの栄養成分を見てみましょう。特に、β-カロテン(β-カロテン当量1900μg)やビタミンC(20mg)が多く含まれています。β-カロテンは、必要に応じて体内でビタミンAに変わり、粘膜などを正常に保つ働きなどがあり、ビタミンCとともに免疫機能を高める働きがあります。寒いこの季節に風邪等の予防に役立ちそうです。
他に、ビタミンK(160μg)や、ビタミンB群も含まれますがB群の中では特に貧血予防等に注目される葉酸(110μg)やナイアシン(1.2mg)、パントテン酸(0.42mg)が多く、カルシウム(34mg)やカリウム(410mg)、マグネシウム(24mg)、鉄分(1.6mg)などのミネラルや、便秘を予防する食物繊維(2.5g)などが含まれます。
なんといっても、セリの特徴は、セリ科特有の香りでしょう。人参やパセリに共通する青々とした香りで、子どもは苦手な場合も多いかもしれません。しかし香りの成分であるテルペン類やオイゲノ―ルは鎮静作用があるとされ、ピラジンは血液凝固を防ぐのに役立ち、他にも解毒作用があると言われるケルセチンなども含みます。
セリの食べ方…生より茹でた方が抗酸化作用は強くなる?
もちろん、抗酸化性は収穫時期や栽培方法等によって変化することが予想され、抗酸化性が高いからといって、野菜として食べる場合にはどれだけ食べれば効果がでるかは明らかではありませんし、特定の食品だけをを多量に取ることは、栄養バランスが崩れることもあるので、幅広い食品から様々な栄養素をとることが大切です。まずは、春を感じる旬の恵としておいしくいただきましょう。
肉や油と相性がよいセリ

日本人には古くからなじみのある「芹」。特有の香りと歯触りがおいしい野菜です。
セリは、日本全国で見られ、秋・冬は「根ぜり」、春以降は「葉ぜり(春せり)」、また田んぼで栽培されるものは「田ぜり」や乾燥した畑で栽培される「畑ぜり」、野生のものは「野ぜり、山ぜり」など、地方や育てられ方で呼び方も様々ですが、一般に流通しているものは田ぜりが主流です。
春の七草粥だけでなく、古いセリの代表的な料理には、室町時代末期に「芹焼き」というものがあり、焼き石の上に芹をおいて覆いをして蒸し焼きにして柚酢や醤油をかけたものだったとか。秋田のきりたんぽ鍋には芹がつきものですし、すき焼きにいれてもおいしく、特有の香りが肉や魚の生臭みを消すといわれます。

鍋物などにいれてもおいしい芹。
和え物、お浸し、天ぷら、何にでも使えますが、少し油物とあわせた方がセリの香りが苦手な人も食べやすいと思います。和え物やお浸しでも、少しごま油やマヨネーズを加えるとよく合います。また栄養面でも、β-カロテンなどの脂溶性ビタミンは、油とともに摂取すると吸収がよくなります。
ハウスものよりは露地物、さらに自生のものが、香りなど風味が強くなります。アクの強いものはさっと茹でて使います。しかし、シャキシャキとして歯触りが身上ですから、加熱しすぎないように気をつけましょう。
セリで食中毒? 野生を採取する時は毒ぜりに注意
毒ぜりの特徴は、地下茎が緑で太く、節があり、その中が空洞な点。セリは根が白いひげねで、葉に芳香があります。同じ場所に混じって生えていることもあります。自生のものがおいしいとはいえ、素人だけで摘んだりせずに十分に注意をしてください。
参考/
・県産農産物の機能性(茨城県)
・県産農産物を活用した機能性食品の研究(石川県工業試験場)
・青森の冬野菜(青森県庁サイト)
・日本食品データベース(文部科学省)
・『祝いの食文化』(東京美術選書)
・『和歌食物本草現代語訳』(源草社)
・『日本たべもの歳時記』講談社+α
・『薬になる植物図鑑』(柏書房)
・『江戸時代食生活事典』(雄山閣)
・『味覚の歳時記』(講談社)