11月10日付日本経済新聞記事『シニア商品買いやすく 食品・日用品、「介護」うたわず』によると、体力は衰えてきたが介護の必要はない、いわゆるアクティヴシニア向けの商品が急増し、売り上げを伸ばしているという。
例えば、歯が衰えてきたが食べることを楽しみたいというニーズに応えた、「過度に軟らかくない食感」の商品や、商品の包装に「介護」と記載があると買うのが恥ずかしい、買いにくいという声が多いことから、「介護」という文字がない商品も増えているという。実はこのアクティヴシニアは、65歳以上の約82%(みずほコーポレート銀行調べ)と大半を占めており、シニアビジネスのメインターゲットといえる層なのである。第一生命経済研究所の研究員は「シニア世代の年間消費支出は2011年の段階で初めて100兆円を突破しました。また、個人消費全体の4割強に到達、今後も右肩上がりが続くでしょう」と分析している。
また、近年「シニアシフト」という言葉が登場してきている。小売業界のシニア向け対策の呼称であるが、このシニアシフトを意識した商品・サービスがさまざまなジャンルで登場してきており、シニアユーザーの好評を博している。
今回は、そんなシニア向けビジネスの最新事情をみていこう。
●キーワード1:シニア向けスーパー
シニア向けスーパーの手本として、視察に訪れる人が後を絶たない創業60年の「ダイシン百貨店」(東京都)。客層の 60%以上がシニアだ。同社社長の西山敷氏は「とにかくシニアのお客様との会話・コミュニケーションを重視しています。そこから今どんなニーズがあるか、それを汲み取って品揃えやサービスにつなげているのです」と、その人気の秘訣を話す。例えば、シニアが好む漬物が250 種類もあったり、トレー代のコストのほうが高いという少量パック、重い物は運搬料無料で運ぶなど、シニアのためのサービスが実に豊富だ。純利益率で流通大手のセブン&アイ・ホールディングス(HD、東京都)を上回っている事実が、その人気を物語っている。
そのほかにも、「ダイエー赤羽店」(東京都)は店全体がシニアシフト仕様で話題となっている。実際に店舗の中を見てみると、通路拡大、エスカレーター速度の低下、値札文字の拡大など随所にシニア層への配慮が見られ、ライフサポート商品を300品目以上揃えている。
●キーワード2:個食
日本食生活協会の調べによると、シニア層がひとりで食事をする、いわゆる「個食」の割合は20~40%と、非常に高い数値となっている。
セブン&アイHDはプライベートブランド「セブンプレミアム」の品目数を増加させているが、特にシニア向け「個食」を重視し、冷凍食品や調味料等を順次追加拡充している。
また、長谷川興産(東京都)が展開する家事代行サービス「マイ暮らす」の「ウチごはんプラン」は、2~3日分の料理をつくり置きしてくれるサービスを展開。個食生活者からの注文が多い人気のサービスで、スタッフ1人が2時間の炊事で9450円(食材費、交通費別)となっている。
●キーワード3:買物難民
内閣府の調べによると、2025年頃には高齢者のみの世帯が1267万世帯になると予測。経済産業省は、現在、シニア層で約600万人の「買物難民」がいると発表している。同省では2010年に「買物弱者対策支援事業」という名目で補助金を拠出し、全国で買物難民向けのサービスが広がるきっかけとなったのは記憶に新しい。
現在ではこうした買物難民向けのサービス形態は、「身近に店をつくる」と「家まで届ける」の大きく2つに分かれている。
・「身近に店をつくる」
「シティマーケット」(全日食チェーン・東京都)は、「小売店空白地帯」を狙って開業されたスーパー。売場面積1平方メートル当たりの日商が全国スーパー平均を上回る店舗もあり好調で、現在は全国展開中である。
「セイコーマート」(札幌市)は北海道最大のコンビニチェーン。利尻・礼文などの離島や過疎地に積極的に出店している。生鮮食品も扱っており、シニア層の自宅調理ニーズにも対応。同社広報は「シニアがほとんどの過疎地でも、ニーズがある限り出店していきたい」としている。
・「家まで届ける」
「ハーツ便」(福井県民生協)は、中山間地などの身近な商店が少ない過疎地域へ対応している移動販売車である。停車場所にシニア住民が集まることにより、地域に新たなコミュニケーションが生まれるという相乗効果も創出され、地域のシニア層からは「いろんな人と顔を合わせて会話できるのがうれしい」 「とりの日に出かけられないので助かる」という声があり好評だ。
そのほかにも買物難民向けの弁当宅配サービスに多くの会社が参入しており、ぐるなび、楽天、生協、コンビニなどが群雄割拠の状態で、熾烈な競争を繰り広げている。
●キーワード4:シニア向けレシピ
矢野経済研究所の調査によると、シニア層は自宅調理をする「内食」を好む傾向があるという。しかし、栄養素や分量等に配慮した調理に困っているといい、その悩みに対応したサービスも増えている。インターネットコムの調べによると、レシピサイトの利用シェアで圧倒的トップとなっているクックパッド(東京都)では、Webサイト「健康レシピ」内において、新たにシニア向けレシピの提供をスタートし好評となっている。「少量しか食べられない」「柔らかいものでないと飲み込めない」といった「シニア世代特有の問題に悩む声が多数寄せられていた」と同社はいい、その問題点に着目し対応した。また、嚥下食など、噛む力や飲み込む力が弱ってきたシニア世代に向けたレシピの提供も今後予定しているという。
●キーワード5:サポートグッズ
日用品業界では、介護は不要だが日常生活のサポートを必要とするアクティヴシニア向けサポートグッズ商品の人気が高まっている。特に「大人用紙おむつ」の分野は、「現在の市場規模は毎年2桁成長を継続中であり、今後日用品分野で一番安定した成長が見込まれている」(矢野経済研究所調べ)と分析されている。
この分野でトップシェアを誇るユニ・チャーム(愛媛県)の「ライフリー」は、実際に母の介護をしているジャズ・ミュージシャンの綾戸智恵さんを広告に起用。これまでは購入が恥ずかしくて利用に戸惑っていたシニア層にとって、明るく親しみやすい綾戸さんのイメージと、包装に介護用という表記がないため、購入がしやすく、需要が顕在化してきたといえる。同社広報は「介護という直接的な表現ではなく、売場提案として、ADL(activities of daily living:基本的な日常生活動作)を5つに分け、売場でシニアの方に自分がどのタイプでどの商品が最適か、わかりやすいようにイラストで表示している」という。また、「『薄い』『長時間でも安心』という商品特徴を積極的に提案、外出時にも普段通り楽しめるように失禁パッドなど多くの種類を揃えている」と語る。
●まとめ
65歳以上の人口が占める割合は、30年には3人に1人になる。また15年には、65歳以上の高齢者比率が人口の30%を超える市区町村が、全国の市区町村の53%まで拡大すると予測されている。そんな超高齢化社会を迎える日本では、シニア層向けビジネスは最も成長が見込める市場のひとつであり、経済産業省の試算では現在のシニアビジネス関連の市場規模は40兆円超に上る。
また、電通と社会工学研究所が共同作成した「シニアマーケット規模将来推計」によると、シニア世代の消費支出は15年には約127兆円になると予測。シニア市場に詳しい村田裕之氏は「シニアシフトの結果、百貨店、スーパー、コンビニにドラッグストアも加わって、同じ土俵で競争が激化している」と分析する。
にわかに活気づいてきたシニア向けビジネスは、今後どのような広がりを見せるのか、その動向から目が離せない。
成田男
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