人生に思い悩んで、易者さんに手相をみてもらった経験、ありませんか。手相を見て人生を語るのは、易者ですが、わたしたち医療従事者は、手を診て健康の状態をいろいろと知ることができます。
よく女性は、ネイルサロンへ通い、爪先の手入れをされます。爪だけでなく、指先のケアにも心がけている人もいらっしゃいます。しかし、男性はあまり指先にまで気を配っていませんね。しかし、手からは、大変多くの情報を得ることができます。手を診ると体の状態を推察することができます。
爪でわかる胸の病気
爪を観察してみましょう。指の爪は1日に0.8~1.2mm成長します。爪は、よくカルシウムでできているとまちがわれていますが、髪の毛と同じケラチン組織でできています。
変形した爪は、数週間前~数か月前、爪の根部に何らかの刺激が加わったことによって起こると考えられています。たとえば、体調が悪かったり、栄養状態が不良だったりした時期や、抗生物質などたくさん薬剤を服用した時期に、爪の変形がはじまることがあります。爪の変化は体調の変化と、よく相関します。
典型的な爪の変形の仕方があります。慢性的な呼吸器疾患や心臓病では、爪が変形して、丸みを帯びた三味線の「バチ状」にふくらみます。この「バチ状爪」の人の中に、肺がんを患っている人もいますので、注意が必要です。
「バチ状爪」とは逆に、へこんでいる爪の人がいます。これは貧血によることが多いと思います。貧血の場合は、爪自体ももろく、割れやすいことが多いと思います。
がん化学療法でも、爪のトラブルが発生します。爪周囲の皮膚が荒れ、爪の変形、色素沈着などが起こります。
爪の変化を漢方医学の「気血水(きけつすい)」から考えると、「血けつ」の異常と考えます。「血」が足りないために爪に異常が起きていると判断し、「血」を補う薬を処方します。当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)が代表です。
指先が白い場合
つぎに、指先をみてください。指先を冷たい氷などで冷やすと白くなる人は、血流が悪い場合があります。小学生の頃にしもやけになったことがある方は、同じ理由です。
指先が白くなることをレイノー現象といいます。温度や振動によって指先まで血液が流れなくなる場合、レイノー病と診断されることもあります。これは、長くたばこを吸っている人や膠原こうげん病の人に起こる病気です。
このような末梢まっしょう 血流障害を訴える場合は、プロスタグランジン製剤やニコチン酸系剤などが使われます。指先の血流障害を、漢方医学では「血」の異常と考え、「血」の流れを良くする当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)を用いて治療をおこないます。
指先が黒い場合
逆に、がん化学療法を受けている人は、指先が色素沈着で黒くなる手足症候群がおこることがあります。とくにカベシタビン(ゼローダ)など5-FU系抗がん剤を使っている場合、色素沈着でお悩みの方は多いと思います。
治療方法は、こまめに尿素クリームやステロイドを塗ったり、ビタミンB6剤を内服したりするのですが、なかなか良くなりません。
わたしは手足症候群の治療には、その人の症状に合わせて漢方薬を処方するようにしています。たとえば、色素沈着がひどく、皮膚もひび割れてしまっている場合、八味地黄丸(はちみじおうがん)や牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)。あかく腫れ上がり、水疱すいほう形成している場合は、越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)などです。
指先を診るだけでも、こんなにたくさんの情報を見つけることができます。爪の手入れをしながら、ご自身の健康ももう一度、よくみつめてみてはいかがでしょうか。
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