米国人なら間違いなく、感謝祭から始まるホリデーシーズンは食べ過ぎることになるだろう。最初に取り分けた皿いっぱいの食べ物を飲み込むと、競うようにまた戻って料理を取り分ける――その繰り返しだ。だが、最適な咀嚼(そしゃく)法というのはあるのだろうか。ピッツバーグ大学で神経胃腸学と運動に関する研究所でディレクターを務める専門家のクラウス・ビールフェルト氏がこの問題をかみ砕く。
食物を細かく砕く
消化作用は口で始まるが、咀嚼がそのきっかけになる、とビールフェルト氏は指摘する。同氏によると、「力学的には、咀嚼は食べ物を細かく砕くので、消化しやすくする」ほか、「化学的には、かむことで唾液が出て、食道へ流し込む潤滑油になる上、消化酵素のアミラーゼの助けをかりて炭水化物の分解が始まる」と言う。長くかめばかむほど、食べ物はより細かくなり、内臓での消化作用が容易になる。「それに誰かが七面鳥の肉の中に残したつまようじを飲み込まなくて済む。これは実際に見たことがあるのだが」と同氏は話す。
10まで数える
19世紀後半、食事に関する研究の第一人者でシリアルを発明したジョン・ハーベイ・ケロッグ氏は、ひと口ごとに35回かむのが理想的だと説いた。ケロッグ氏と同時代のホレイス・フレッチャー氏も同じような結論に至った。ひと口ごとに32回かむべきだと言った。つまり1本の歯につき1回の計算だ。しかし、どちらの説もデータに基づいているわけではなかった。ビールフェルト氏は「彼らがどこからそんな考えを得たのかわからないが、単純計算すれば食事が終わる前に料理が冷え切ってしまうことがわかる」と指摘する。同氏は消化管の中で食物がどう処理されていくかを研究している。通常のひと口あたりの理想的な咀嚼回数は不明だが、10回程度ではないかと同氏は推測する。
カロリーを減らす
体は摂取した食料の全てのカロリーを吸収したがる。そのため、細かくなっていない大きいままの食べ物は胃腸にとどまり、その栄養が吸収できるようになるまで発酵することになる。かむ時間を長くすることで、あとに残されて発酵することになる食べ物の量が抑えられ、腸の中のガスが減るかもしれない。その結果、おなかの張りも少なくなる可能性がある。加えて、よくかむことで食事の進行が遅くなり、脳に満腹を確認する時間を与えるとビールフェルト氏は言う。同氏は「ブドウ糖の量が十分に高いかどうかを測る体内のサーモスタットは、十分に食べたという感覚を与えてくれるが、それは遅れてやってくる」という。「だから、よくかまないで飲み込む人は肥満の危険にさらされている。脳が満腹感を認識するよりずっと前に満腹になっているのだから。だから(それに気づかず)食べ続けることになる」と同氏。ビールフェルト氏が特に休暇中の食べ方で勧める方法はこうだ。食べ物を口に入れたらいったんフォークを置く。これまでより小さな皿を使う。最後の人が食べ終わるまでおかわりを取りに行かない。1皿食べ終わるごとに休憩する。
快楽の原則
感謝祭の食事の楽しみの一部は会話であり、大勢で食べることだとビールフェルト氏は言う。ゆっくりと長くかむことが最大の喜びをもたらすという。楽しい食事の時間がより長く続くのみならず、口の中で分解されるでんぷんの甘みを正しく味わい、ひと口ごとにおいしい香りをかげるからだ。これらすべてが幸福感と満足感を高める一助になる。ビールフェルト氏は「よくかまずに飲み込んでしまえば、ほとんど味わっていないことになる。口の中にただ食べ物を入れ、食道に流し込むだけなら何の楽しみもない」と言う。
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