やせている人、小顔の人にも少なくない「睡眠時無呼吸症候群」
最新の睡眠脳波検査で、中等度の睡眠時無呼吸症候群(SAS:Sleep Apnea Syndrome)の疑いがあることがわかった編集部O(参考記事:最新の睡眠脳波検査を記者が体験!)。従来、SASといえば肥満男性の病気というイメージがありましたが、実際にはOのように女性にもあり、人知れず悩んでいる女性は少なくないのだとか。
「RESM新横浜 睡眠・呼吸メディカルケアクリニック」院長・白濱龍太郎先生に、SASについて詳しく聞いてみました。
いびきをかく人、日中眠い人は睡眠時無呼吸症候群の疑いあり?
睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは、睡眠中に何度も呼吸が止まったり(無呼吸)、止まりかける状態(低呼吸)が繰り返される病気。SASの人は睡眠中のいびきを人から指摘されたり、自分でも睡眠途中で目覚める、眠れないなどの症状を自覚することが多いようです。編集Oも日頃から次のような症状を自覚していました(SASと明らかに関係がある=○、関係がある可能性がある=△、白濱院長による)。
・寝言が多い △
・いびきをかく ○
・昼食後に眠くなる △
・飲酒すると眠くなり、宴会や接待の席でも寝てしまうことが多い △
・電車やバスなど、乗り物に乗るとすぐ眠くなる ○
・人によく「疲れているね」と言われる ○
昼食後の眠気は、誰でも起こる生理的な現象で、程度の差はあるかもしれませんが、これがあるからといって異常とはいえません。また、飲酒時の居眠りも直接SASによるものというわけではなさそうです。「われわれが居眠りをするときは副交感神経優位になっていますが、アルコールを摂取すると、最初はリラックス(=副交感神経優位)しますが、1~3時間(個人差があります)後に交感神経が優位になります。そのため、宴たけなわで寝てしまい、数時間後にすっきり目覚めることがあるかもしれません」(白濱院長)。
寝言は、それのみでは異常ではありませんが、レム睡眠(夢を見る浅い睡眠)の際に出ることが多く、何らかの原因で睡眠が浅くなっている可能性があります。SASは、眠りが浅くなるので、そのために寝言が多くなることは考えられます。
いびきや日中の疲れなどは明らかにSASが関係していて、SASの人は眠りが浅いことから、朝起きたときに頭痛がしたり、眠気やだるさで日中の活動にも支障が出てくることはよく知られています。
「SASの人は一般の人に比べて交通事故のリスクが数倍高くなるといわれています。仕事上のミスにもつながったりしますので、影響は決して少なくありません」(白濱院長)。
こうした状態を放っておくと、大事故につながりかねないばかりか、睡眠の質が悪くなって「むずむず脚症候群」などの神経過敏症状を引き起こしたり、血中の酸素濃度低下を繰り返すために、高血圧や心筋梗塞、脳卒中、糖尿病などの合併症を招くこともあるのです。
やせている人、小顔の人にも少なくない
SASの多くは、空気の通り道である気道が完全または部分的に閉じてしまうことによって起こります。そのため肥満の人や首が短くて太い人に多いのですが、やせ型でももともとの骨格が小さい人や、顎が小さく奥まっている人も、構造上、気道がふさがりやすくなります。
従来、肥満男性に多いといわれていたSASのとらえ方は変わってきていて、やせている人や小顔の女性にも少なくないのです。
こうした人は睡眠中、咽頭の筋肉や舌がゆるんだ状態で息を吸うと、狭い気道がいっそう狭くなって無呼吸や低呼吸が起こるのです。
このような睡眠中の呼吸状態を調べるには、一晩睡眠の検査を受けます。編集Oが受けた終夜睡眠ポリグラフィー検査では、脳波、心電図、呼吸運動、血液中の酸素量など詳細な記録ができます。
検査で1時間あたりの無呼吸と低呼吸を合計した回数(無呼吸低呼吸指数)が5回以上、かつ日中の眠気もしくは無呼吸による症状を伴う場合にSASと診断されます(表)。
1時間あたりの無呼吸と低呼吸を合計した回数(無呼吸低呼吸指数)が
5回以上15回未満 軽症
15回以上30回未満 中等症
30回以上 重症
生活を見直し、CPAPなどの装置で治療することができる
SASと診断されたら、まずは生活習慣を見直す必要があります。軽症の人は、生活習慣を改善するだけで、無呼吸が減ったり、症状が軽快することもあります。
仰向けで寝ると舌が落ちて気道をふさぎやすくなるため、体を横向きにしたまま寝るように工夫します。「テニスボール法」といって、パジャマの背中にポケットを縫い付け、テニスボールを入れて、寝返りのとき刺激によって体を元に戻す方法が簡単です。
また、絶対的な睡眠時間が不足している人が多いので、7時間から8時間の十分な睡眠時間を優先的に確保します。さらに、飲酒、喫煙はSASを悪化させることがあるので控えるようにします。
これらの生活改善を試みても効果がない場合は、マウスピースの装着がすすめられることもあります。上下の歯の間に固定し、下顎を前に引き出すことで気道のスペースを広げ、いびきの緩和が期待できます。
ほとんどのSASの患者さんに有効で、治療の第一選択となっているのが「CPAP(シーパップ):nasal CPAP=nasal Continuous Positive Airway Pressure 経鼻的持続陽圧呼吸療法装置」と呼ばれる装置です。睡眠中に鼻マスクをつけ、一定圧を加えた空気を鼻から送り込むことによって、気道を確保することができます。女性向けのコンパクトなものなどさまざまなタイプがあり、旅行や出張でも持ち運びが可能。無呼吸低呼吸指数が20回以上であれば健康保険が適用になります。
気道がふさがる原因が扁桃肥大など明らかな場合や、他の治療方法ではうまく行かない場合などは、扁桃や口の中の一部を切除して気道を広げたり、鼻の通りをよくする手術が必要になることがあります。
一人で悩んでいないで相談を
睡眠中の状態は自分ではなかなかわかりません。いびきなどを自覚していても、女性の場合、恥ずかしくてなかなか人に言えないということも多いもの。しかし、終夜睡眠ポリグラフィー検査を受ければ一晩でさまざまなことが明らかになりますし、SASなどの問題が見つかれば、治療して快適な日常生活を取り戻すことも可能です。十分な睡眠時間をとっているのに昼間の眠気やだるさに悩まされているようなら、早めに専門医(※)を受診してみましょう。
※睡眠医療の認定医は日本睡眠学会のホームページから調べられます。
白濱龍太郎
筑波大学医学専門学群卒業。東京医科歯科大学大学院加齢制御医学(統合呼吸器病学)修了。2009年グッドスリープ・クリニック院長。2012年武蔵野学院大学准教授、銚子市立病院睡眠センター長。2013年よりRESM新横浜院長。
http://wol.nikkeibp.co.jp/article/column/20131028/165222/?P=1&ST=yahoo_headlines