本格的な冬のシーズンを迎えようとしている中国で、深刻化している微小粒子状物質「PM2.5」による大気汚染。その発生には、大陸上空にあるシベリア高気圧の勢力が影響していることが、九州大学応用力学研究所の研究で分かった。同物質の中国から日本への“越境汚染”も心配されており、今後の東アジア地域の気象状況にも注意は必要だ。
「PM2.5」は、大気中に浮遊している直径が2.5マイクロメートル(μm)以下の超微粒子のこと(1μは100万分の1)。その粒子の大きさは、髪の毛の太さの約30分の1と、かなり小さいため、ヒトの肺の奥深くまで入り、ぜん息や気管支炎、肺がんなども起こりやすくなる。世界保健機関(WHO)の専門組織も10月17日に、PM2.5などの大気汚染物質による発がんリスクを最高レベルの危険度に分類したことを発表した。
なお、PM2.5の主な直接の発生原因は以下とされている。
・焼却炉のばい煙
・自動車の排ガス
・山火事の煙
上記以外には、工場や家庭などでの燃料燃焼によって排出された硫黄酸化物や窒素酸化物などが、大気中で光やオゾンと反応して発生する。
日本では、大気汚染によるリスクに関して、2009年9月にPM2.5の環境基準が以下のように設定されている。
「1年平均値 15μg/m3以下 かつ 1日平均値 35μg/m3以下」
近年は規制対策によって、大気中のPM2.5濃度は減少傾向にあったが、今年1月に中国・北京などでPM2.5による高濃度スモッグが発生し、日本への健康影響が強く懸念されるようになった。このため環境省は今年2月、これまでの環境基準に加え、「1日平均値が同70μg(1時間値で同85μg)」を超えた場合に、住民への注意喚起を行うことなどの対応指針を作った(なお、11月2日の北京市内における大気中のPM2.5の濃度は1立方メートル当たり388μgを記録している)。
今回の九州大学応用力学研究所の研究では、今年1月の中国での高濃度PM2.5汚染について、過去10年間の気象条件と東アジアにおけるPM2.5排出量などを分析した。その結果、今年1月のシベリア高気圧の強度が10年間で最も弱く、風速も弱かった。このため高気圧の中心があった北京周辺の中国東部では大気が安定し、PM2.5が高濃度化しやすかったという。地球の温暖化が進行すると、冬季のシベリア高気圧の強度が弱まり、中国では高濃度汚染が発生しやすくなる。このため中国国内での大気汚染対策が進まない限り、高濃度PM2.5汚染が増加すると、研究グループは指摘する。
■日本への相関関係は慎重な結論
そうなれば、さらに日本への中国からのPM2.5の“越境汚染”が心配されるが、研究グループは「今年1月の福岡の平均濃度には北京と顕著な相関は見られず、中国から日本域への汚染質の輸送量には大きな増加はなかった」と慎重な結論だ。
しかし、九州大学応用力学研究所の見解とは異なり、環境省は今年1月は、西日本の広い地域で環境基準(日平均値)を超える PM 2.5 が観測されたこと、都市汚染の影響の少ない九州西端の離島にある国立環境研究所の観測所でも粒子状物質の濃度上昇が観測され、その成分に硫酸イオンが多く含まれていたこと、大気シミュレーションでも北東アジアにおける広域的な PM 2.5 による大気汚染の一部が日本にも及んでいることなどから、「大陸からの越境汚染の影響があった」とみている。その影響の程度については、通常の日本の都市汚染と組み合わさっている可能性が高いので、詳細な解析が必要だとしている。
(文責/企画NONO)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20131104-00000001-wordleaf-sctch
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20131104-00000001-wordleaf-sctch&p=2