【山本亮介】ご当地戦隊ヒーローが各地で活躍するなか、ちょっと変わった「仮面ライダー」がいる。この姿で20年近く前からバイクで疾走しているといい、今では越後路を駆ける姿を見かけると、「その日一日、幸せに過ごせる」との言い伝えもあるらしい。いったい何者? 正体を探ってみた。
今春の転勤で新潟生活がスタートした記者が最初にライダーを目撃したのは、6月。参院選の取材で弥彦神社を訪れた時だった。
参道を歩くライダーを、参拝客は遠巻きに見守っていた。男の子が「写真いいですか」と駆け寄ると、無言でうなずいた。途端に、あちこちでカメラ付き携帯を取り出す人たち。即席の撮影会が始まった。
調べを進めると、ライダーが長年、愛車の整備を任せるバイク専門店が分かった。新潟市東区の「佐上商会」。経営者の佐上博さん(63)はこう話してくれた。「ライダーがバイクを乗り始めたころからの付き合い。心優しい男で、整備も欠かさないし、安全意識は人一倍高い」
近く、来店予定があるという。取材を申し込むと、「OK」の返事。約束の日時、ライダーが鮮やかな緑色のバイクで現れた。
250ccのバイクからおりたった男性は、優しい声で「NIIGATAライダー」と名乗った。身長は170センチ弱、足が細く、すらっとした体形がヒーローっぽい。ご当地アイドル「Negicco」(ねぎっこ)のファンという。
聴くと、ライダーとして県内を駆けるようになったのは、90年代半ばから。80年代にバイクに乗り始めた当初から「自分の好きな姿で走りたい」と、戦隊もののようなヘルメットをかぶっていたが、次第に仮面ライダー世代の血が騒いだ。
キラキラ光るテープで作った目をフルフェイスのヘルメットに貼り、段ボールで作ったプロテクター姿が初代となった。その後もヘルメットの改良を重ね、大きく赤い複眼はお面の目の部分だけを切り取り、触覚は自動車のコーナーポールを利用。今は9種類になり、その日の気分で選ぶ。
ライダーとして走り始めたころは、すれ違うドライバーに驚かれることも多かったらしい。最近は信号待ちで、「頑張って下さいね」と声をかけられることもあるという。
県警に止められること数回。ただ、怒られたことはない。「顔を覆うマスクをかぶっていると思われたのか、『あー、メットなんですね』と言われます」。
夏は大変らしい。水分補給やトイレの際は「時には一度、『人間』に戻る」と言うが、「楽しんでくれる人がいるうち、やめるわけにはいかない」。メットの奥の目が笑った気がした。
その後、新潟・古町であったイベントに同行すると、写真を求める列がすぐにできた。小学6年生長谷川碧さん(11)と3年生諒くん(9)は「いまテレビでやっているライダーとは少し違うけど……」とうれしそうに話した。
別れ際、名前と年齢を聞いてみた。ライダーは少し悩んだようだ。「子どもたちの夢を壊したくないんです」そう言い残し、さっそうと人混みに消えていった。
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