寒くなると、おなかが痛くなることがあります。おなかが冷えてしまったために、痛みが起こったのでしょう。こんなときは手のひらをへそに当てて温めると痛みが和らぎます。これこそが、医学で行われる最も大切な「手当てあて」という治療方法です。
おなかを大切にすることは、健康で生活するための重要なポイントになります。おなかが発信するサインに耳を傾けることで、自分の体調についていろいろ知ることができます。
実は漢方医学では、おなかの所見からいろいろな情報をえて、治療の糸口にします。以前にもお話ししましたが、東アジアの伝統医学で、おなかの診察を行うのは日本だけです。中国の伝統医学である中医学や韓国の韓医学では、おなかを診察する方法はありません。
この日本独特の診察方法である「腹診ふくしん」は、西洋医学で行う診察方法とは診るポイントがことなります。
一つ目は、「腹力ふくりょく 」です。おなかを観察して、力士のように力強い場合は、「腹力がある」といいます。柳のようにやせ細った人のおなかは、へこんでしまっています。この場合は「腹力がない」といいます。これによって、その人の「虚実きょじつ」を判断します。
腹力 | 体格 | 皮膚 | |
---|---|---|---|
虚のおなか | ない |
やせ形、水太り、 |
乾燥している、くすんでいる |
実のおなか | ある | 筋肉質 | つやがある、張りがある |
二つ目は、「腹直筋のはり」です。みぞおちからへそにかけて、腹直筋がはっている場合は、肉体的あるいは精神的なストレスがあると考えます。
これを理解するには、あなたが「強い風に向かって歩くとき」を思い出すといいでしょう。台風の時のように強い風を前面にうけながら前進するとき、風による強い力をはねのけるために、体中の筋肉に力が入ります。このとき、腹直筋は張っています。
今度は、「風」を「ストレス」に置きかえてみます。あなたにストレスが加わっている場合は、知らないうちに前屈かがみになり、体中の筋肉に力が入り、腹直筋もはってしまいます。つまり、「腹直筋のはり」が現れるわけです。
このようにいろいろな情報を得ることができる腹診は、毎日の生活をする上で、自分自身の体調管理に役立てることができる知恵となります。朝起きたとき、布団の中でゆっくりとおなかを触ってみてください。自分の体をいたわる気持ちでおなか全体を触ってあげることで、気づいていなかった自分の体調を見つけることができますよ。
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