30代のCさんは、ある施設の調理士。数百人分の魚の調理をしている最中、全身に発疹が現れ、仕事に支障が出ています。皮膚科医が、魚のエキスを使って皮膚のアレルギー反応を調べる「パッチテスト」を行っても陰性でした。
そこで私は、診察中にCさんを催眠状態に導入し、「調理場にいる」という暗示をかけました。すると、彼は左右の手を動かし調理をするしぐさを始め、じんましんが現れ、体をかき始めたのです。
1日だけ入院してもらい、催眠時の血中ヒスタミン値などアレルギー反応に関与する物質を調べると、じんましんの出現に並行してこれらの物質の数値が上昇しました。ヒスタミンは、通常は抗原に反応して肥満細胞から放出されるのですが、抗原がなくても条件刺激だけでこうした反応が引き起こされることが分かっています。
診察室で不思議な体験をしたCさんは、人間関係で悩みを抱えていることを私に打ち明けてくれました。悩みに耳を傾け、具体的な解決策について話し合って実行した結果、彼の人間関係は好転し、じんましんも軽快しました。
西洋医学の医療モデルは、心と体を別個のものとする「心身二元論」です。体の病気が専門の内科などの身体各科と、うつ病や統合失調症など心の病気が専門の精神科とに分けられています。
一方、心療内科は「心と体は互いに関連し合い、明確に区別できない」というのが大前提。心と体を分けて行う医療だけでは、Cさんの病気は解決できなかったでしょう。ただ、心療内科を標榜ひょうぼうする医師の9割以上が実は精神科医のため、心療内科は心の病気を診る、という誤解と混乱が生じているのが現状なのです。(清仁会洛西ニュータウン病院名誉院長・心療内科部長 中井吉英)
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