日本透析医学会が、終末期に透析を行わない場合の手続きに関する提言作りを進めている。透析をしないことは死を意味するため、これまで終末期の議論は積極的に行われてこなかったが、患者の高齢化で避けて通れない問題になってきた。
透析は、慢性腎不全の患者の血液から老廃物を除去する治療法。同学会によると、国内の透析患者数は30万人を超え、平均年齢は67歳。透析開始時の平均年齢は1983年で52歳だったが、昨年は68歳と高齢化が進んだ。がんや脳卒中、心臓病などの合併症を抱える高齢患者が増えている。
透析は通常、週3回、1回4時間ほどかかる。通院の手間や長時間の拘束、針刺しの苦痛、血圧変動など、体への負担は大きい。
このため、がんなどで終末期になると、患者と家族が抱える事情や人生観から「透析は始めなくていい」「中止したい」と考える場合もある。提言は、そうした場合に医療者側が対応する目安を示すものだ。
昨年12月に公開された案によると、透析の中止は患者の意思を尊重して話し合って決める。もし患者に判断力がない場合は、家族と医療チームが話し合い、患者の意思推定に努めるなどとしている。さらに議論を重ね、来春には提言をまとめたい考えだ。
終末期医療の方針決定に関する指針は厚生労働省が2007年に作成しているが、延命措置別の指針は、日本老年医学会が昨年3月に公表した人工栄養に関する指針に続くものだ。透析中止や差し控えは死に直結するため、方針決定は人工栄養に比べて困難を伴う。
学会の動きに先んじて、実践を重ねている病院も少数ながらある。
千葉社会保険病院では10年前から、毎年3月ごろに透析患者に「事前指示書」を配っている。意識が失われ、回復も望めなくなった場合の人工呼吸器の使用や透析継続に関する希望を、あらかじめ尋ねる。記入は強制ではない。
始めたきっかけは、どんなに容体が悪化しても、本人の意思がわからないまま透析が続けられることに疑問を持った看護師からの提案だった。当初は「死ねということか」と患者に怒られることもあったが、最近は「今年はまだ?」と催促されるほどに定着した。回収率は約80%と高い。
これまで事前指示書を参考に話し合い、10人の透析を中止した。病院から中止を提案することはなく、意識を失った患者の家族からの中止希望を受けて、本人が過去3年間に書いた事前指示書を参考に話し合う。
50代の患者本人が家族を説得し、自ら中止を決めた例もあった。腎臓以外の重病を抱えながら、透析を約20年続けてきた末に出した結論だったという。
室谷典義院長は「家族の意向だけで透析を中止したら、家族は患者の命に対する責任を一生背負うことになる。だからこそ、元気なうちに本人が希望を書いておいてほしい」と言う。
患者団体の全国腎臓病協議会も提言作りに基本的には賛成だが、前会長の宮本高宏さんは「患者や家族が適切に判断できるよう、医師による十分な情報提供が不可欠だ」と指摘する。
今年2月に85歳で亡くなった宮本さんの母親は、1月に腎機能が急低下したが、宮本さんは母親の全身状態がかなり悪いことを考えて透析を断った。「たまたま私が透析に詳しいのでその選択ができたが、普通は『もっと長く生きられるかもしれない』と透析を受けていたはず」と、患者側が判断する難しさを語る。
終末期の課題は一朝一夕には解決しないが、提言作りをきっかけに、医療者だけでなく、患者や家族も参加して議論を深めたい。
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