東日本大震災の発生から11日で2年半。東京電力福島第1原発事故により、懸念された食料品の放射能被害は沈静化しつつある一方、被災地の農産品を販売する首都圏のスーパーは風評被害を最小限にとどめる取り組みに懸命だ。ただ、汚染水漏れ問題など原発事故の影響は今なお深刻で、風評被害をもたらす不安要素は消えない。スーパー間の競争も激化する中、不安を抱える消費者心理との板挟みに苦慮する面もある。
「グイーン…」。白衣の研究員が福島県産のナシをミキサーにかけ、専用の容器に詰め替えた。流通大手イオン傘下の「生活品質科学研究所」が実施する放射能検査。検査機器に容器を設置して約2分後、コンピューター画面に「ND(検出されず)」の文字が出ると、周囲から安堵(あんど)のため息が漏れた。
イオンは2011年11月から「店頭での放射性物質ゼロ」に向けて、生鮮品に対する放射能の自主検査を強化。国の基準値未満でも検出されれば、その産地からの調達を当面見合わせている。小田川平・中央研究所長は「数百件に1件は検出されるため検査ではいつも祈る気持ち。それでも風評対策は検査数値を積み重ね、徐々に不安を取り除く作業が不可欠」と語る。
検査は店頭で告知され、来店客に浸透してきた。11年10月にピークだった放射能に関する消費者の問い合わせも検査強化以降、ほとんどゼロになった。今年9月上旬、東京都内の店舗に検査された福島産のナシが並んだ。手に取った女性客(57)は「検査をしてくれているから安心」と買い物カゴに入れた。
販促活動で安心感を創出する試みも続く。セブン&アイ・ホールディングス(HD)は、今秋も「東北かけはしプロジェクト」を実施する予定。福島、宮城、岩手の被災3県の旬の食材を使った弁当や総菜、名産品を販売するイベントで、これまでに6回実施している。通常の販売でも、同社は震災前からの被災3県の取引先との商品取り扱いを、ほぼ全て再開。取引量についても「震災前の状態に近づきつつある」という。
一方、子育て世帯の多い住宅地に出店するスーパーの場合、放射能への不安を拭い切れない消費者に配慮せざるを得ない店舗もあるという。関東に展開する食品スーパーは、比較的所得の高いファミリー層が来店する店舗の一部で、西日本産の生鮮品だけを扱うコーナーを設ける。仕入れも少なく物流コストもかさむため、東日本産より価格は高めだが、売り上げは堅調だ。「企業としては被災地を応援している」。担当者はあくまで地域限定の措置であることを強調するが「来店客から『安心できる』といわれる。競争する他のスーパーとの差別化につながっているのは事実」と、ジレンマをにじませる。
別の中堅スーパーも、豆腐や牛乳といった常備頻度が高い食料品で、西日本産の原材料を使った商品をそろえるなど、加工食品の各分野で同様の商品を50~60種類展開する。このスーパーは放射能の検査装置を自社保有するほか、検査済みの野菜を仕入れるなど安全性に自信を持っているが「来店客ができる限り西日本産を選べるようにしている」という。
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