1.”もの盗(と)られ妄想”への対処
認知症の症状には、実行機能障害・記憶障害などの認知機能の障害と、BPSD(妄想・うつ状態・興奮や暴力・徘徊[はいかい]など、行動・心理症状)があります。BPSDの中でもよく見られるのが、”財布を盗られた”などと訴えるもの盗られ妄想です。これは、財布や通帳などの大切なものをどこかにしまったものの、しまったことが頭からすっかり抜け落ちてしまい、財布や通帳が見当たらないことを合理的に説明するために”とられたに違いない”と妄想を作り上げるものです。患者さんは不安や焦りを感じていますので、このような場合は騒がずに一緒になくなったものを探すとよいでしょう。繰り返す場合にも、毎回淡々と対応するようにします。何回か繰り返すうちに、しまい忘れる場所は見当がつくようになります。疑われる人に対する周囲のサポートも大切です。
2.興奮や暴力への対処
夜中に興奮して大声を上げるケースでは、実際にはないものが見える幻視や、病的な寝ぼけである夜間せん妄が起こっていることがあります。興奮や暴力が見られるときは、まず危険を避け、介護する人の身の安全を確保することが最も大切です。「いつ、どこで、どんな状況で、誰に対して、どの程度」の興奮や暴力が起こったかをできるだけ具体的に記録し、理由を考えるとともに、担当医に相談し、専門家と一緒に対応を考えるようにしましょう。
3.徘徊への対処
徘徊にはさまざまな状況があります。まず、冷静に前後の状況を考えてみましょう。道に迷った、施設に入所していて家に帰ろうとした、自宅にいることが理解できず家に帰ろうと出て行った、家族の姿が見えなくなったため不安になって探しに出たなど、原因によって対応が異なります。理由が推測でき、対応が考えられる場合もあります。また、止めるのが困難な徘徊の場合は、いなくなったときに見つかりやすいように、「衣服に名札を付ける」「名刺をバッグや服のポケットに入れておく」「GPS機能付きの携帯電話などをバッグに入れる」などのほか、近所の人や警察にもあらかじめ事情を伝えておくとよいでしょう。
4.介護が難しいとき
自宅での介護の負担が大きくなり過ぎ、介護をする人が心身の健康を保てなくなることがないよう、家族全員が協力して介護の負担を分散することが大切です。介護保険制度により自宅にいて利用できる居宅サービスには、訪問介護、デイサービス、ショートステイなどがあります。また、自宅での介護が困難になった場合には、施設サービスを受けることができます。介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)、介護老人保健施設など、いろいろな種類があります。患者さん、介護をする人の両者とも心身に余裕のあるうちに、あらかじめ調べておくとよいでしょう。
NHK「きょうの健康」2013年8月8日放送分