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脳細胞が増える運動「3つの条件」

■新常識!  ニューロンは運動で増える

ネーパーヴィル203学区の取り組みは、運動が子供たちの学業成績にプラスの影響を与えることを証明してみせた。ではなぜ、運動をすると頭が良くなるのか。

運動が「脳の神経細胞を育てる」からだというのは、『脳を鍛えるには運動しかない! 』(NHK出版)の著者、ハーバード大学医学部のジョン・J・レイティ博士だ。

「運動すると、脳由来神経栄養因子(BDNF)という物質が脳の中でさかんに分泌されます。このBDNFが、脳の神経細胞(ニューロン)や、脳に栄養を送る血管の形成を促すことが明らかになりました」

以前は「脳のニューロンの数は生まれたときに決まっており、その後は加齢とともに減っていく一方で、増えることはない」と考えられていた。だが最近では、さまざまな要因で後天的に増えることが科学的な常識となっている。

「ニューロンの数を増やすために最も効果が期待できるのは、運動です。さらにものを覚えたり認知能力を高めるために必要な神経結合を増やしたり、ドーパミンやセロトニン、ノルアドレナリンといった思考や感情にかかわる神経伝達物資の分泌を促す効果も、運動にはあります」と、レイティ氏は言う。

たとえばいくつかの研究では、有酸素運動によるトレーニングを行うことで、記憶をつかさどる海馬が大きくなることがわかっている。

また、継続的な運動によって、脳の認知能力が強化されることも明らかになってきた。

学業成績と運動との関連性については、アメリカでは1980年代から研究が進められてきた。有名なものの1つは、カリフォルニア州教育局が2001年、同州の小学5年生約35万人、中学1年生約32万人、中学3年生約28万人を対象に行った大規模な調査だ。

この調査ではまず、「フィットネスグラム」と呼ばれる総合的な体力調査で、子供たちの心肺能力や筋力、持久力、体脂肪率などを調べる。そして、体力と標準学力テストの数学およびリーディング(英文読解)の成績の、関連性を分析した。すると、体力調査での成績が高い子供ほど、学業成績も優秀な傾向があることが確認された。

では、どういう運動が、脳を育てるために効果的なのか。レイティ氏が勧めるのは、一定時間にわたって心拍数を上げるタイプの運動だ。研究によると、数ある体力の評価基準のうち、とくに心肺機能が学業成績と強い相関関係を示しているという。

具体的な心肺機能の高め方は、速足でのウオーキングやランニング、エアロビクスやエアロバイクを使った運動など。週に2日は最大心拍数(注)の75.90%まで上がる運動を短めに、残り4日は65.75%までの運動をやや長めに、というのが脳のためには理想的だという。心拍数の目安としては、ランニングでたとえると、最大心拍数に対して80%以上というのはかなりきつい全力疾走、70%はやや息が上がる走り込みといった具合だ。心拍計を使って測ってみるのもよいだろう。

「ただ、子供たちの場合は、本人が好きで楽しいと感じることをやらせてください。かけっこ、ボール遊び、ダンスや体操など、なんでも構いません。毎日、運動させるのはとても大変なことですから、無理をしないことが大切です」(レイティ氏)

なぜ、サッカーやバスケットボールなどでは駄目なのか。その理由をレイティ氏はこう語る。

「チームスポーツの場合、運動に苦手意識を持っている子は、体を動かしにくい。ですから、頭を良くする運動の観点からは、競争や勝負を排除したほうが良いというのが、私の考えなのです」

さらに、体を動かしながら頭も使うような運動はより効果的だとも、レイティ氏はアドバイスする。

「ヨガのポーズ、空手の形といったように、自らの動きを意識させる運動は脳に良い刺激になります。また、複雑な動きをし、普段使わない筋肉を意識的に使うことも有効でしょう」(レイティ氏)

とはいえ、運動だけで成績が上がるわけではないとも、レイティ氏は指摘する。

「運動はあくまで、脳が学習するための準備を整える役割です。成績を上げるためには、そのあとの学習とセットで考える必要があります。運動を終えるとまもなく脳の血流が増しますが、このときこそが、思考力や集中力が飛躍的に高まるチャンス。勉強を始める前、できれば朝にやることをお勧めします」

できれば毎朝体を動かし、心拍数を上げてから勉強に向かう。これが最新科学が解明した「運動で頭を良くする」極意。

こうしたレイティ氏の理論を基に米国でboks(ボックス)と呼ばれる運動プログラムが開発された。

(注)最大心拍数:一般的には成人男性の場合、220から自分の年齢を引いた値を理論上の最大心拍数とみなす。

■レイティ氏の理論を基に米国で行われている運動プログラム(boks)

1.準備体操(標準時間5~10分)

運動前に体と心をほぐす輪になっての準備運動。声を意識して出すことで、積極的に体を動かせるようにする。

2.ランニングアクティビティ(標準時間10分~)

体を動かし体温を上げるジグザグ走やジャンプなどを取り入れたランニングで、体を温める。

3.グループゲーム(標準時間15分~)

体だけでなく、頭も使って楽しむ遊びをベースとした、作戦やチームワークが必要とされるゲームに取り組む。

4.クールダウン

整理運動をし、徐々にクールダウン体操などで参加者全員に同じ動きをさせ、気持ちを一つにするのも目的。

氏の理論に共感した、キャサリン・タリーという母親が「朝、体を動かすことで、子供をより健康的にし、脳を勉強に対して良い状態にする」ことを目的に提唱し、地域社会やPTAを巻き込んで全米に広がりをみせた。ミシェル・オバマ米大統領夫人も注目する1人。

キャサリンが広めたboksプログラムは「脳を活性化する運動」として、レイティ氏も支援している。

その中でもレイティ氏が「脳を活性化するために、最も理想的な運動が行われている」と絶賛し、視察にまで訪れた小学校が、なんと日本にあった。

■日本上陸!  米国発、頭の良くなる運動プログラム

2時間目の終わりを告げるチャイムのあと、140人ほどの全校児童が、体育館に続々と集まってくる。かぶった体育帽の色で赤組と白組に分かれ、手をつなぎながら2つの大きな輪をつくる。大きな声でおはようのあいさつをすませると、輪の中央に立ったインストラクターの誘導で準備体操が始まる……。栃木県宇都宮市郊外の田園風景の中に立つ市立瑞穂野南小学校の、boksプログラムの始まりだ。

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脳細胞が増える運動「3つの条件」

「boks式だるまさんがころんだ」の様子。床に伏せた状態でスタート。鬼に向かって全力で走り、鬼が振り向いたら床に伏せる。立ち上がって、走って、伏せてを繰り返すので、児童も息が切れてくる。

日本ではスポーツを通じた社会貢献を目指しているユナイテッド・スポーツ・ファウンデーション(USF)が、インストラクターを派遣して、プログラムの普及を進めている。

瑞穂野南小では現在、月に1、2回ほどの頻度でboksプログラムを行っている。時間は2時間目と3時間目の間の中休みの、およそ20分程度。内容はグループゲームを中心に、子供たちが楽しみながらしっかり体を動かせるよう工夫されている。インストラクターの根無(ねむ)教博氏は次のように語る。

「遊びの要素を入れつつも、『勝ち負けや競争にしない』『普段使わない筋肉や関節を使う』『スキンシップや会話を促すような構成』といったレイティ氏の考え方をしっかり取り入れています」(根無氏)

この日のプログラムは「だるまさんがころんだ」。体育館のステージ側に集まった子供たちが、鬼役の6年生の「だるまさんがころんだ! 」のかけ声が始まるやいなや、全力疾走で反対側の壁を目指す。

かけ声が終わって鬼が振り向いたとき、床に伏せていればセーフ、間に合わなければアウト、というアレンジがミソ。伏せてはさっと起き上がって走り、また伏せては起き上がって……と繰り返す運動量はかなりのもの。

「心拍数を上げること、有酸素運動であること、全員が自然に全力を出せることを重視しています。また、ちょっと作戦を考えるなど、頭を使うような要素もできるだけ入れるように工夫しています」(根無氏)

■教職員も児童たちも効果を実感! 

学力面での効果について、同校の小野浩司教諭は「国語の漢字の書き取りや算数の計算問題などについては、データは取っていないものの、効果は出ています。boksで体を動かした後の授業では、記憶の定着や計算のスピード、授業への集中力が向上していると教員も強く実感しています。子供たちへのアンケートでも、運動のあとは、授業に集中できるという回答が非常に多かった。今後は学力の関係などについて、より実証的なデータも取っていけたらと考えています」と語る。

同校からは昨年3人の児童が中学受験に挑戦し、全員が第1志望に合格した。田んぼに囲まれた、学年30人足らずの小学校としては、画期的な成果だ。

学力面以外でも効果は大きい。なかでも、先生方を驚かせているのは、子供たちのメンタル面での変化だ。

同校の体育主任、上野智之教諭は「クラスの人間関係がよくなり、生徒間のトラブルも減ったと感じています。また、児童一人一人の表情が豊かになったとも感じます」とその効果を語ってくれた。

ネーパーヴィル203学区でも、子供たちの協調性、リスクに挑戦する姿勢といった、社会スキル面をつかさどる脳の部位の発達が、成績向上と同時に指摘されていた。同じことが、瑞穂野南小学校でも起きているのかもしれない。

楽しい20分間はあっという間に過ぎ、最後にクールダウンのエクササイズをみんなでやって、その日のプログラムは終了。

汗だくのインストラクターや先生と笑顔でハイタッチを交わしながら、子供たちは教室に戻っていく。疲れて眠くならないの、と尋ねると、「全然!  むしろ頭がすっきりする! 」と元気いっぱい。

実証データはまだないものの、「運動が脳にいい効果を発揮する」ということは日本の教育現場では実感を得ているようだ。

瑞穂野南小学校での成果を受け、栃木県内ではさらに6校の公立小学校で、boksプログラムが導入される予定となっている。子供たちの脳の中で、これからどんな奇跡が起きていくのか楽しみだ。

川口昌人=文 平山順一、遠藤素子=撮影

http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20130824-10010350-pfamily-bus_all

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http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20130824-10010350-pfamily-bus_all&p=3

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