仕事や観光で海外を訪れる人が増える中、海外で流行している感染症への対応が急務になっている。感染症の予防には飲食物に気をつけるなど生活上の注意が大切だが、ワクチン接種も効果的な対策の一つ。どんなワクチンを選べばいいのだろうか。(平沢裕子)
◆飲食物から感染
日本や欧米先進国では既に根絶したり流行が確認されたりしていない感染症でも、発展途上国を中心にいまだに感染リスクがあるものもある。A型肝炎▽B型肝炎▽破傷風▽狂犬病▽黄熱▽日本脳炎▽髄膜炎菌▽腸チフス▽マラリア▽デング熱-などだ。マラリアとデング熱以外はワクチンで予防できる。
いずれも感染したら大変な病気だが、これらのワクチンの接種費用は自己負担になるため、全て接種するのは経済的にも難しい。東京医科大学病院渡航者医療センターの浜田篤郎教授は「滞在する地域で感染する頻度が高く、かつ発病したときに重症度が高い感染症のワクチンを優先的に選択するといい」と指摘する。
厚生労働省はアジアやアフリカ、南米へ渡航する人にA型肝炎と破傷風の予防接種をすすめている。
A型肝炎はA型肝炎ウイルスに汚染された飲食物から感染する病気で、衛生状態の良くない途上国では魚介類や水、生野菜が原因となることが多い。発症すると、倦怠(けんたい)感が強くなり、重症になると1カ月以上の入院が必要となることもある。
◆W杯観戦者も
破傷風菌は世界中の土壌に存在し、日本でも毎年、患者が発生している。昭和43年から始まった定期接種の3種混合ワクチン(ジフテリア、破傷風、百日せき)に含まれるが、接種から10年以上たつと抗体が落ちている可能性がある。
傷口から感染するため、冒険旅行などけがをする可能性のある人は受けた方がいい。来年、サッカーワールドカップ(W杯)の観戦でブラジルへの渡航を予定している人も接種がすすめられる。「海外のサッカー観戦ではガラス瓶を投げつけたり、けんかを始めたりする人もいるなど、巻き込まれてけがをする可能性が高い。破傷風への対策は不可欠」(浜田教授)
外務省では、腸チフスへの注意を呼び掛けている。腸チフスはA型肝炎と同じように水や食物などを介して感染。途上国では毎年約2千万人の患者が発生、20万~30万人が死亡しているとされる。日本では腸チフスワクチンはまだ承認されていないが、海外渡航者のためにワクチンを接種する「トラベルクリニック」では輸入ワクチンの接種が可能だ。
トラベルクリニックの一つ、品川イーストクリニック(東京都港区)の古閑比斗志副院長は「腸チフスは長期間の滞在で感染リスクが高くなる。特にインドやインドネシアからの帰国者に患者が多く、渡航を予定している人は接種した方が安心」とすすめる。
また、途上国で見かける野良犬は狂犬病の予防注射をしていない可能性が高い。狂犬病は発症したら致死率がほぼ100%だけに、野良犬にはむやみに近づかない。犬だけでなく、キツネやアライグマ、コウモリもウイルスを持っている可能性があり、奥地や秘境などを旅する人は気をつけたい
■旅行業者に情報提供義務
平成17年の旅行業法改正で、旅行業者は旅客に安全衛生情報を提供する義務が生じるようになった。これを受け、日本旅行業協会(東京都千代田区)はホームページで予防接種の種類や接種回数などの情報を提供している。
ただ、海外でA型肝炎や腸チフスを発症する日本人は依然として多く、欧米先進国に比べ、渡航者ワクチンに対する認識が低いのが現状だ。
また、腸チフス、髄膜炎菌、経口コレラ、ダニ脳炎などの渡航者用ワクチンは日本では未承認。接種によって健康問題が発生したときに補償制度がないことから、早期承認や制度の充実が求められている。
http://news.goo.ne.jp/article/sankei/life/medical/snk20130823500.html