このところの酵素ブーム。店頭にはさまざまなダイエット商品が並べられ、飲むだけで激やせするというキャッチフレーズを信じこんで飲み続けている人も多いと思います。
【噂の「酵素」は本当に短期間でヤセる?酵素ドリンク徹底比較】
では、本当に酵素ダイエットは有効なんでしょうか?癌や認知症、代謝病をご専門に健康増進のための食品や薬剤も研究されている、酵素学者の内田隆史教授にお話を伺いました。
――まず酵素とはなんでしょうか?
内田「酵素を一種の栄養素と考えている人も多いようですが、酵素は20種のアミノ酸で構成されたタンパク質です。すべての動植物はDNAの中に膨大な数の酵素の設計図が組み込まれていて、生命活動を維持するためにその都度、適切な酵素を自ら作り出し、化学反応を起こして身体機能を整えています。
酵素の量や機能が低下したり、また逆に異常に高進したりして細胞内のバランスが狂うと生体全体に支障をきたし、いわゆる病という症状がおこります」
――酵素バランスが崩れてきた場合、食品から酵素を摂取して改善できるのでしょうか?
内田「酵素自体が腸から吸収されることはありません。食品はすべて、口、胃、腸などの消化器官で、タンパク質の素となるアミノ酸に分解され吸収されます。食物内の酵素も消化管でアミノ酸にほぼ完全に分解されてしまいますので、そのままの形で生体に入って作用するということもありません」
――では体内酵素に働きかけるにはなにが必要でしょうか?
内田「遺伝子を活性化させることが重要ですので、栄養素をバランスよく摂(と)ることと運動が必須です」
――太るということも酵素と関係があるのでしょうか?
内田「太る、やせるという身体の異常もこの酵素のバランスの異常によるもので、例えば、糖代謝を促す酵素、脂肪代謝を促す酵素のバランスが崩れると結果的に太るという現象が起こります」
――飲むだけでやせるという酵素液やダイエットサプリなどが市販されていますが。
内田「酵素ドリンクというのは植物を原料にした発酵食品というものらしいですね。発酵には微生物が関与し、反応は微生物の酵素が行うので酵素という単語が使われているだけだと思います。
確かに、発酵食品は腸内細菌を整える意味が大きく、この微生物の種類が肥満にも大いに関係します。菌を産生する物質が腸管を通して体に入り肥満を抑制するという可能性は多少ありますが、根本的に肥満を改善するには、酵素バランスを整えることが重要ですので、発酵食品を飲むだけで劇的な改善はのぞめません」
――果物や野菜を大量に摂(と)るダイエット法も一時期ブームでしたが……
内田「食物繊維(セルロース)は、もともと消化できないものであり、それでおなかを膨らませて消化できないまま排せつするという方式です。だから意味がないというのではく、消化しないものを食べて排せつすることで腸内環境を整えるというのは健康にはいいことです。しかし、それだけでは酵素バランスが崩れます」
――特定の食品に頼ったダイエットは逆効果ということでしょうか。では、有効なことは?
内田「やはりバランスのいい食事と運動です。ポリフェノールを含む食品はいいです。ポリフェノールは海藻、果物、お茶、などに含まれますが、肥満に有効なのではないかと考え、現在、この仮説が正しいかを研究していますので、近いうちに明確にできると思っています。
また、筋肉は基礎代謝を高めるのに必要ですから動物性タンパクもキチンと摂(と)らないといけませんし、筋肉量を増やすために運動も大切です。運動すると筋肉がついて基礎代謝があがり太りにくくなりますし、また神経細胞が増えるという論文も出ています」
植物由来の酵素液に頼った、プチ断食や置き替えダイエットは逆に酵素機能を低下させてしまう可能性大。やはりダイエットに必要なのは、偏った食生活にならないこと。3食をバランスよく食べ、運動して体内酵素を活性化させることが重要なんですね。
(安藤のり子)
東北大学教授 農学博士 内田隆史先生
東京大学農学部農芸化学科卒業後、早稲田大学理工総研専任客員教授、東北大学加齢医学研究所病理学助教授、学際科学国際高等研究センター、医工学研究機構客員教授兼務を経て、現在は東北大学大学院農学研究科分子細胞科学講座分子酵素学分野主任教授。世界レベルで生体における酵素機能について研究する。
http://woman.mynavi.jp/article/130814-069/