東京電力福島第1原発事故から2年4カ月が過ぎた今も日本の水産物の放射性物質による汚染を懸念し、約40の国・地域が輸入停止や検査証明書を求めるなどの輸入規制を続けている。北海道や九州など放射性物質の影響が少ない地域の水産物を規制する国もあり、漁業関係者には厳しい状況が続いている。(平沢裕子)
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◆検査証明書を要求
日本から海外への水産物の輸出量は平成22年度は56万5千トンあったが、原発事故後の23年度は42万4千トンと激減。24年度は前年より若干持ち直したが、それでも44万トンで、事故前の水準に戻っていない。輸出額への影響はさらに大きく、22年度の1950億円から23年度は1736億円、24年度は1698億円と減り続けている。
日本からの輸出が回復しない理由の一つが輸入品に対する各国の放射能規制だ。
農林水産省によると、日本全体、または福島県など一部の地域を限定して日本からの水産物(一部も含む)の輸入を停止しているのは中国やシンガポールなど約10カ国。それ以外の国・地域でも産地証明や放射性物質検査の証明書の提出を求めている。検査には時間と手間がかかり、検査費用は輸出側が負担しなければならないなど漁業者らには大きな負担となっている。
韓国は事故後、北海道や愛媛、熊本など16都道県の水産物について放射性物質検査の証明書提出を義務付け、検査の際の放射性物質の検出限界値を1キログラム当たり0・7ベクレル以下にするよう求めている。韓国内の食品の放射性物質の基準値は同100ベクレル以下で、表向きはそれ以下なら輸出が可能といえる。ただ、実際は韓国側の輸入業者の多くが検出限界値以下(ND)を求めるといい、日本からの輸出が難しい状況が続いている。
◆「安全」アピールを
北海道で漁獲されるスケトウダラは韓国のチゲ鍋の材料として人気が高く、事故前には高値で取引されていた。特に生鮮品は日本からしか輸出できないこともあり、事故前は年間1万6千~2万トンが輸出されていた。しかし、事故後の23年は9千トン、24年は6千トンと激減し、価格も大幅に下落している。
チゲ鍋には肝やしらこも入れるため、生で輸出するには鮮度の良いものをなるべく早く輸出先に届ける必要がある。検査に時間がかかれば生での輸出を諦めざるをえない。韓国のスーパーの中には「国民の健康のために日本産の水産物は一切販売しない」との方針を表明する所もあるなど風評被害での取引停止も少なくない。
北海道漁業協同組合連合会(札幌市中央区)の斎藤規維(のりゆき)参事は「韓国のマスコミを呼んで検査体制を見てもらうなどしたこともあるが、風評被害はなかなかなくならない。国として日本の水産物の安全性をもっと海外にアピールしてほしい」と訴えている。
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■給食使用避けるケースも 国内
水産総合研究センターの調査報告書によると、水産物の風評被害は国内でもある。
全国で共通するのが、出荷制限指示対象となっていない水産物の給食使用を忌避したり必要以上に放射性物質の検査を要求したりするケース。給食をめぐっては、出荷制限がかかっていない北海道や青森のタラを「子供たちの安全を守るために給食食材として選択しない」と明記した文書を保護者に配布した自治体もあった。
また、宮城県の養殖用飼料のオキアミが検査で基準値を大幅に下回っていたにもかかわらず、仲買人から購入を断られたケースもあった。JF全漁連は「消費減少もあり、魚価が低迷し、漁業者には厳しい状況が続いている。水産物はモニタリング検査を行っており、安全性が確認されたものしか市場に出回らない仕組みになっている。安心して食べてほしい」と話している。
http://sankei.jp.msn.com/life/news/130715/trd13071508360004-n1.htm
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