失恋などの現代社会の悩みを、仏教がどう救えるか。宗派を超えた若手の僧侶たちが、無料の情報誌を発行したり、経典を読みながら悩みを自由に語り合ったりして、新しい仏教の形を模索している。(杉森純)
「『無常』が効きそう」「この恋は永遠と思っていると苦しい。諸行無常と思えば、気持ちも楽になる」
東山を望む京都市内のマンションの10階。浄土宗僧侶の池口龍法さん(32)と神戸大学助教の辻村優英(まさひで)さん(33)らが、ブッダの言葉を集めた初期の経典を読みながら、それを自由に解釈して、失恋について議論する。
「経典をナナメから読む会」と名付けた集まりは昨年1月、辻村さんの大失恋をきっかけに始まった。京都大学で宗教学を学び、仏教に詳しい辻村さんだったが、自分の失恋には無力だった。「欲望を離れろと言っても無理。座禅をしても妄想ばかり浮かぶ」。京大で仏教学を学んだ池口さんと二人で仏教の経典を読んで、救いを探すことにした。「どうせならたくさんの人と一緒に」と、池口さんが発行する無料の情報誌で参加者を募った。
6月8日が18回目だった。「輪廻(りんね)で来世があると思うと、今の悩みがささやかに思える」「命は目的ではなく道具。どう生きるかが大切」「墓参りも経典には書かれていない。実は日本の伝統」。経典を手がかりにしながら、会話は脱線して、失恋からどんどん話題が広がっていく。
初めて参加した事務職員の辻はな子さん(28)は「仏教は価値観が多様。自分の視野を広げてくれる」と感想を話す。
兵庫県尼崎市で800年以上続く浄土宗の寺に生まれた池口さんは、「仏教は長い伝統の中で蓄積してきたものがたくさんある。でも、その良さが同世代に伝わっていない」と悩んでいた。京大大学院を中退して浄土宗総本山・知恩院(京都市)に入り、布教にも携わったが、旧態依然とした活動に疑問もあった。寺を訪れるのは年配の人がほとんどで、若い同世代と仏教について話す機会はなかった。
同世代とつながる手段として4年前、知り合いの僧侶、ライター、カメラマン、研究室の後輩などに声をかけて、無料の情報誌「フリースタイルな僧侶たちのフリーマガジン」を発行した。リアルな空間を求めて、ネットではなく、紙の媒体をあえて選んだ。
宗派を超え、天台宗、真言宗、浄土真宗の僧侶も参加。1500部だった部数は、今では1万部を超えるようになった。
あまり知られていない僧侶の日常生活を特集した号は評判だった。お寺で宇宙の研究者とトークライブをしたり、毎年年末にみそぎの会を開いたりしている。若い世代だけでなく、幅広い年代の人が参加して、仏教について気軽に語り合う。仏教と現代社会のつながりに関心があった辻村さんとも、こうした活動を通じて知り合った。
辻村さんは「仏教は『まず信じなさい』ではなく、論理的に認識する過程を大切にする。現代社会と親和性がある」と強調する。
東京でもトークライブを開くなど活動の場は広がる。池口さんは「知恵と慈悲が仏教の両輪。絆を求める人たちに、寺からどんな提案ができるか試されている。情報誌を足場にして新しいことに挑戦していきたい」と話している。
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