こんにちは。メンタルトレーナーの森川陽太郎です。
就活うつ、五月病、最近では六月病といった様々な適応障害やうつ病に関するニュースをよく目にします。特に「新型うつ」という言葉は、ここ数年でとても有名になりました。
「新型うつ」とは、好きなことは出来るけれど、嫌なことになると体調が悪くなるなどの症状が出る、従来のうつ病にあてはまらないものと言われています。今、日本では特に若手社員の間で「新型うつ」の人が増加傾向にあるそうです。これらのニュースを見て「私もそうかも…」と感じる新社会人の方は少なからずいるのではないでしょうか?
今、日本ではうつの人が多くなっていると言われ、その対処法を模索しているのが現状です。しかし、実際にお話をした企業の担当者やビジネスマンの話を総合すると、私の見解では、日本で「うつの人が増えている」のではなく、「うつになりたい人が増えている」の方がしっくりきます。
当の本人達がみな苦しんでいることは事実です。しかし、本人の自覚がないまま、うつの症状がコミュニケーションの手段や自分と向き合わないための道具となってしまっているケースがたくさんあることも事実として存在します。
今回は自らうつの症状を引き起こしてしまう「私もうつかも病」に、部下や同僚を巻き込ませないための方法をお伝えします。
あなたが「過呼吸」になることで得をしていることはなんですか?
過呼吸で悩んでいるある女性から相談を受けた際、彼女に最近過呼吸を起こした状況を聞きました。
社内の冷房が効きすぎていて少し寒いと感じたので、みんなに「少し温度を上げてもいいですか?」聞いたところ、上司から「今の温度がちょうどいい!」と言われた後、段々と苦しくなってきて、過呼吸が起こったそうです。その時の周りの反応は「大丈夫?」「ごめんね」という具合です。
そこで彼女にこう問いかけました。
「あなたが『過呼吸』を起こすことで得をしていることは何ですか?」
これは、私が過呼吸に苦しんでいる人みなにする質問です。全員が口をそろえて「得なんかしていません。苦しいだけです」と答えます。でも、何回か話す機会を重ねると、「もしかしたら過呼吸になることで、周りに自分が『苦しい』と伝わり、心理的に得をしているのかもしれません」と言います。
人は自分の持っている感情を他人が知ってくれるだけで、自分のことを理解してくれている安心感や満足感を得ます。彼女の場合、自分をうまく表現できず、苦しいことを手っ取り早く伝える方法が過呼吸になってしまっていたのです。
彼女にはそれを理解し、受け入れてもらった上で、感情を表現する言葉を使って人とコミュニケーションをとることを心がけてもらいました。感情を表現する言葉とは「苦しい」「悲しい」「嬉しい」「楽しい」などです。その結果、周りに自分の感情を理解してくれる人が増え、過呼吸を起こさなくても安心感や満足感を得られるようになりました。そして、彼女は過呼吸を起こさなくなっていきました。
具合が悪くなれば許される環境で育った人たち
今度のケースは、うつの症状に苦しむ若手男性社員の話です。彼は、仕事で自分にかかる負荷が高くなると、咳が止まらなくなります。その症状が半年に及ぶこともざらです。その度に彼は病院へ行き「うつ」だと診断され、仕事量を減らしてもらったり、周りから心配してもらったりしていました。そして、しばらく時間が経つと仕事を辞めて転職することを繰り返していたのです。
彼と話をする中で、その繰り返しの原因が見えてきました。彼は「自分は周りよりも仕事ができない」現実を受け入れたくなかったのです。「うつ」と診断されれば自分に言い訳がつきます。実際に、彼が病院で「うつ」と診断された時、一番に感じる気持ちは「安堵」だったと言います。
この傾向は新入社員によくみられます。入社半年も経たないうちに多くの新入社員が精神的な疾患で休職している会社の話なども聞きます。「この会社、自分には合っていないかも…辞めたいな」となった時に、精神的な「病」が会社を退職する都合のいい理由になってしまっているのです。
つまり、何か苦しい問題に直面すると、「苦しまないこと」がゴールになってしまい、自分自身と向き合うことをやめ、できるだけ楽な方法で問題を回避してしまうのです。
この男性社員の場合、何度か話す機会を重ねていくうちに、「うつ」と診断されることが自分にとって楽になる手段だと気づきました。自分が周りより仕事ができないということは、何より見たくない現実でした。しかし、それを受け入れて、「自分は周りよりも仕事ができないけれど、それを少しでも変えていけるように失敗しながら頑張ろう」と思うようになりました。やがて、彼の半年以上に渡って続いた咳は収まり、精神的にも安定して、仕事に取り組めるようになったのです。
「私もうつかも病」を打破させるために必要なこと
部下や同僚などが、自らうつの症状を引き起こしてしまわないために、以下の2つの点を実践してみましょう。
1. 「感情」を言葉で伝えさせるようにする
本人が感じていることをちゃんと言葉にして表現させることが重要です。人は自分の感情が相手に正確に伝わると、満足感や安心感を得られます。しかし、「わかってほしい」と思う割に、伝える方法を知らないのが現状です。
あなたが上司であれば、部下の気持ちをわかっていることをちゃんと伝えるのが大切になります。「つらいけれど、この仕事を完成させて!」「疲れていて嫌だと思うけど、頑張ろう!」など、上司自身も感情を言葉にして、相手の気持ちをわかっていることを伝えながら指示を出すよう意識すると効果的です。
2. できること、できないことを整理させる
日本には限界を決めるのは悪いことだという価値観が根強くあります。そのせいで、自分自身のできないことを受け入れられない人が多くいるのです。そのような人は、他人からの評価によって、自分ができたか、できなかったかを評価してしまいがちです。その基準は、決して自分自身に合ったものではないため、自己否定感ばかり持って働く原因になってしまうのです(このテーマは、以前にも「周囲の評価を逆転させる」ためのタフな心の作り方で取り上げましたね)。
上司であるあなたは、その人ができていないことと、できていることをしっかりと整理してあげるサポートが大切です。できていないことを受け入れて、どうすれば出来るようになるか、建設的な方法を本人に考えてもらいます。今までできなかったことができるようになった時には、それに気づかせるよう声をかけることも重要です。
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もちろん、ここに書いた話は極端な事例かもしれません。うつで本当に苦しんでいる人も実際にいます。紹介した事例は、あくまでも潜在的に「うつになりたい」と思っていた人の話です。
最近、メディアで目にする「こういった傾向がある人はうつの可能性があります」などといった類のものは、日本のうつ人口を増加させているようにすら感じます。「自分もそうかも…」と自分の都合に合わせて解釈し、「うつ」の診断を積極的に受けようとする人を増やしているのです。
自分の人生に責任を持ち、しっかりと自分と向き合いながら人生を歩んでいく強さが、これからの私たちには必要なのではないかと思います。
http://news.goo.ne.jp/article/lifehacker/bizskills/healthcare/lifehacker_32876.html