「ざっくり言うと」-。ニュースサイトに配信された新聞社などの記事の冒頭に、こんな見出しに続いて「要約」が掲載されることが増えている。要約を作っているのはサイト側で、どんなに長い記事も3行程度にまとめられているのだが、これは最近になって広がっている現象だ。なぜニュースに「ざっくり言う」必要が生まれているのだろうか。
「育児休業3年」論議をめぐる6月7日付の本紙記事が「ライブドアニュース」へ配信されたところ、次のような要約文がつけられていた。
《ざっくり言うと
・安倍首相は14日、女性活躍を据えて育児休業3年を推進するよう経済界に求めた
・出産を機に6割以上の女性が離職する現状に歯止めをかける狙い
・女性や企業からは「3年も必要なのか」と長期休業に不安の声が上がっている》
元の記事は2600字、400字詰め原稿用紙で6.5枚分だが、わずか100字で「ざっくり」言われていた。その下には「記事を読む」のボタンがあり、読者は関心があれば記事本文を開いて読み進む仕組みだ。
ライブドアニュースは昨年10月から毎日150~180本の配信記事を要約。「ヤフーニュース」も昨年12月から今年3月にかけて、「まとめると」という名前でほぼ同じ機能を試行した。英フィナンシャル・タイムズ電子版は5月末、短文ニュース「fastFT」を始めている。
◆あごの力が弱くなる?
こうした動向について、ネット上では「わかりやすい」「個条書きというのがいい」などと好意的な意見が寄せられる一方、実名によるツイッターで次のような意見もあった。
「長文を読む根気や読解力は弱くなるよね。柔らかい食べ物ばかり好んで食べてるとあごの力が弱くなるのと同じだね」
ライブドアニュースを運営するLINEの末弘良雄さん(34)は「スマホ向きのサービスって何だろうと考えて始めた。掲示板の2ちゃんねるには『今北(いまきた)産業(いま来たので3行で説明してくれ、と求める意)』という文化があるが、スマホで通勤や休憩時間に読むとき、求められることは何だろうと考えた」と話す。同ニュースの閲覧数は昨年12月ごろ、スマホ版がパソコン版を上回ったという。
◆さながら現代文の問題
記事の要約をめぐっては、米ヤフーとグーグルが3、4月に「自動記事要約アプリ」をそれぞれ3000万ドル(約30億円)で買収。わが国でも6月、「Vingow」というニュース収集アプリに日本語で初めて記事の自動要約機能がついた。こちらも3行で要約。自然言語の処理技術は今、急速な進歩を遂げている。
ライブドアニュースの場合、編集スタッフ15人ほどが国語の現代文の問題さながら人力で要約に取り組んでいる。末弘さんは「新聞社出身はおらず、20~30代のネット大好き人間たち。恣意(しい)的な編集による訴訟リスクも懸念されるため、要約の際は文脈を変えないよう注意を払っている」と説明する。
ちなみに、新聞記事は最初の段落がリード文と呼ばれ、「何がニュースか」を提示している。サイト側が付ける要約は“屋上屋を架す”感がなきにしもあらずだが…。一番複雑な思いをしているのは、懸命に書いた記事を3行にまとめられ、消費される記者たちかもしれない。(徳)
【用語解説】わが国のニュースサイト
主に(1)新聞社など報道機関系(2)IT企業系(3)IT企業が報道機関から記事の配信を受け運営するもの-がある。(3)の代表格、ヤフーニュースは140社から毎日3500本の記事の提供を受け月間閲覧数は75億。ライブドアニュースは300社から同3000本の提供を受け、月間閲覧数は5億。「ざっくり言うと」は主にスマホ版で提供し、パソコン版でも検討している。
http://news.goo.ne.jp/article/sankei/life/medical/snk20130701506.html