健康を損ね、家庭生活や仕事に支障を来しても、飲酒がやめられないアルコール依存症。治療の目標は酒を一滴も飲まない「断酒」だが、継続は簡単ではない。この厄介な飲みたい欲求を抑え、断酒を続けられるよう助ける新薬が30年ぶりに発売された。
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アルコール依存症の患者は、大量のアルコール摂取のせいで脳神経が興奮しやすい状態になっており、これが強い飲酒欲求につながると考えられている。
新発売の断酒補助剤レグテクト(一般名アカンプロサートカルシウム)は、興奮しやすい神経の働きにブレーキをかけ、飲酒の欲求を抑える。1日3回、2錠(計666mg)を食後に服用する。1989年にフランスで認可されて以来、日本以外では24か国で販売されている。
国内ではこれまで抗酒薬が長く使われてきた。液剤のシアナマイド(一般名シアナミド)、粉剤のノックビン(同ジスルフィラム)の二つだ。
どちらも肝臓でのアルコールの分解を妨げる。薬が効いている時に少しでも酒を飲むと、動悸(どうき)が激しくなったり息苦しくなったりと、ひどい酒酔いの症状が表れる。恐怖心で飲酒を止めるのが狙いだ。
しかし抗酒薬は、肝臓や腎臓の機能が悪くなった患者には慎重に投与するよう定められている。
国立病院機構・久里浜医療センター院長の樋口進さんは「抗酒薬は広く使われているが、肝硬変などがある患者には投与できない。重症患者が多い久里浜医療センターの入院患者で服用できるのは約半数で、実際の服用患者は2割程度だ」と話す。
一方、新薬のレグテクトは抗酒薬に比べて肝臓に負担をかけないため、より多くの患者が服用できるという。国内の臨床試験では、24週後の完全断酒率が163人中77人(47・2%)。薬成分が入っていない偽薬は164人中59人(36%)で、レグテクトを服用した群が11ポイント程度上回った。
アルコール依存症治療の第一歩は、飲酒をやめ、アルコール分を体から抜くこと。この時、手が震えたり大量の汗をかいたりする。重症の場合は、ひきつけを起こしたり幻覚を見たりする。3日程度で治まるが、専門医療機関に入院し、睡眠薬や精神安定剤などを用いた方が、良い結果が得られる患者も多い。
レグテクトは、こうしたつらい症状が治まった後に服用し、しばらく飲み続ける。「断酒を始めて1年程度が、再飲酒が最も懸念される。この時期を薬で助けようという狙いだ」(樋口さん)。抗酒薬と一緒の服用もできる。
アルコール依存症の国内推定患者数は80万人。しかし医療機関で治療を受けている患者は4万人にとどまる。樋口さんは「新薬の登場で受診や相談が増える可能性がある」と期待する。
依存症の治療では、専門医療機関での心理療法や、同じ依存症患者が支え合う断酒会などの自助グループへの参加も必要となる。
日本アルコール関連問題ソーシャルワーカー協会会長の岡崎直人さんは「大量飲酒の背景には、ほとんどのケースで心の問題や、家庭や仕事の悩みがある。薬はあくまで補助的な役割だ」と話している。
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