[ カテゴリー:生活, 社会 ]

毎年数千人の日本の富裕層がシンガポール移住を検討するワケ

前回は、世界からシンガポールに集まる著名人について紹介しましたが、今回は日本人のシンガポール移住についてです。

シンガポールには3万人弱の日本人が在住していますが、このほとんどは企業駐在員で、シンガポールに永住する人はごく一部です。しかし、諸外国の富裕層と同じく、日本の富裕層の間でもシンガポールへの移住熱は高まっています。

● 現役世代の富裕層・起業家の移住が急増している

シンガポールのプライベートバンキング部門で働く知り合いの日本人は、10年程前に日本人向けのチームを立ち上げた時には月に1人程度の相談者しかいなかったのが、今では毎日のようにお客さんが来ると話していました。

このプライベートバンキングは金融資産1億円以上の富裕層が対象ですが、一つの会社に毎日のように移住についての問い合わせがあるということなので、シンガポール全体では毎年数千人の日本人富裕層が移住を検討していると推定できます。

実際に、弊社がシンガポールで事業展開をしようと考え始めたのも、2012年に入ってから、資産運用のアドバイスを提供していたお客様の中から、シンガポールへの移住に関心を示される方が急速に増えてきたからです。

数年前までは、富裕層が引退後に快適な生活環境と低い税制を求めて移住するパターンが一般的でしたが、近年ではまだ仕事をしている現役世代の富裕層・起業家の移住が急増しています。弊社のお客様でシンガポールへの移住に関心を示される方は、ほとんどが30代・40代の起業家です。

この連載の第3回でも紹介しましたが、2012年4月に投資家永住権制度が廃止されるなど、シンガポール政府が移住を望む人材が、富裕層から起業家にシフトしてきています。この流れを受けて、シンガポール移住を検討する日本人も、同じ富裕層であっても引退後の高齢層から現役世代に中心が移ってきています。

● 税率の低さに加え、金融インフラの充実にも注目

シンガポールに移住した日本人としては、村上ファンドの創始者である村上世彰氏が有名ですが、他にも数多くの日本人ファンドマネージャーがシンガポールに本拠地を移しています。

金融関係者がシンガポールに移住する理由としては、ここまで解説してきた税金の低さに加え、金融業に対する規制の少なさやシンガポールの金融インフラの充実があげられます。ファンドの管理業務やコンプラ、顧客コミュニケーションなど、ファンドの主目的である運用事業以外に割かなければならない労力を、日本よりはるかに少なくすませられることが、ファンドマネージャーにとってのシンガポールの大きな魅力となっています。ちなみに、村上氏は最近オーチャードに数十億円する高級コンドを購入したと、現地の不動産業者の間で話題になっていました。

金融業以外では、IT起業家のシンガポール移住も増えてきています。2012年に韓国のネクソン社に365億円で買収された株式会社gloopsの経営陣の中で、梶原吉広氏と池田秀行氏の2人の居住地がシンガポールであると、M&Aについてのプレスリリースに書かれていたことは日本でも話題となりました。

他にも、多くの日本人IT起業家がシンガポールに続々と移住していますが、この理由としては税制や規制環境以外に、ベンチャー企業への投資という観点からもシンガポールの重要性が高まっていることがあげられます。シンガポールはASEANのヒト・モノ・カネに加え情報が集積する場所ですから、シンガポールに移住することでリアルタイムにASEAN全域の有望ベンチャーの情報を集めることができます。

IT起業家の多くは、自分自身の会社を大企業にエグジットし一定の資産を築くと、ベンチャー企業に初期資金を提供する、いわゆるエンジェル投資家として活動します。ASEANのIT業界は未成熟ですから、IT業界の発展に精通した人であれば、有望なベンチャー企業を見極めやすく、ASEAN各国のベンチャー企業への投資機会にアプローチしやすいシンガポールの魅力が高まっているのです。

● シンガポール政府の官僚たちによる必死の勧誘も

シンガポール政府の積極的なアプローチも、IT起業家の移住に一役買っています。

シンガポールは、リー・クアンユー/リー・シェンロン親子を頂点とする一つの企業のような国家で、官僚であっても大きな成果を残せば年収数億円の高給が得られます。そして、シンガポールにベンチャー企業を誘致する担当官僚の給与は、自分が誘致してきたベンチャー企業がシンガポールにおいてどれだけ企業価値を高めたのか、雇用を生んだのかというパフォーマンスと、ある程度連動するように設計されています。

法人税を大幅に下げたり、シンガポール人スタッフの給与を補助したりといった優遇策も、各担当者の裁量で機動的に行われます。

もちろん、いろいろな優遇をしたにもかかわらず、誘致したベンチャー企業が成長せず、シンガポールへの貢献が少なかった責任も、各担当者は問われます。この苛烈な信賞必罰により駆り立てられたシンガポールの官僚たちが、世界中のベンチャー企業から有望企業を必死で探しだし、本拠地をシンガポールに移させることにつながっているのです。

シンガポールに移住する富裕層はベンチャー起業家だけでなく、大企業の経営層にも広がっています。株式会社HOYAの鈴木洋CEOがシンガポールに移住したことは、昨年日本でも広く報道されました。

このような日本人富裕層・起業家のシンガポール移住は、日本のメディアなどでは批判的に報道されることが多いですが、こうしたトレンドが生まれる背景を理解した上で、対策を打たなければ流れは変わりません。批判するばかりでなく、シンガポールなど海外で活躍する富裕層・起業家の活動を、どうすれば日本にも還流できるのかという骨太な議論が起きることが期待されます。

次回は、知り合いの日本人超富裕層のシンガポールでの暮らしぶりについて詳しく紹介します。

 

http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20130612-00037239-diamond-bus_all

http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20130612-00037239-diamond-bus_all&p=2

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