東日本大震災の教訓を地域の備えに生かすため、河北新報社は25日、巡回ワークショップ「むすび塾」を三重県尾鷲市の川原町自治会で開いた。東北以外で開くのは4回目(海外を除く)。近隣の新川原町、知古町の自治会を含む住民9人が参加し、移動に手助けが必要な「要援護者」の避難方法について議論した。震災の被災者2人も「語り部」として話し合いに加わった。
南海トラフの巨大地震が起きた場合、リアス式海岸沿いに広がる同市には、最大17メートルの津波が予想されている。川原町自治会は1944年の東南海地震の津波でも犠牲者が出た。住民の津波に対する危機意識は高い。
小学6年で被災した東南海地震で両親を失った山西敏徳自治会長(80)は「避難が一刻を争う中、手助けするうちに危険が迫ってしまう」と課題を口にした。
語り部を務めたのは、相馬市の民生委員五十嵐ひで子さん(65)と宮城県七ケ浜町の行政区長鈴木享さん(59)。2人は被災体験を語り、避難支援について、日ごろから隣近所のつき合いを深めておくことの大切さを訴えた。
進行役を務めた減災・復興支援機構(東京)の木村拓郎理事長は、車いすや浮輪などを準備する「多重対策」を提案。そのうえで「状況によっては、要援護者の避難支援ができない場合もあることを地域で話し合ってほしい」と述べた。
<隣近所、普段から交流を>
南海トラフ巨大地震の津波被害が予想される三重県尾鷲市で25日に開かれた防災ワークショップ「むすび塾」では、避難に支援が必要な「要援護者」対策が大きなテーマとなった。地域住民9人と減災・復興支援機構の木村拓郎理事長、語り部役を務めた東日本大震災の被災者2人がアイデアを出し合った。
地域には、体が不自由などの理由で1人で逃げられない高齢者が約15人いる-。参加した3自治会は、リヤカーを使った運搬を想定している。しかし、「1台当たり2人の人手が必要」「乗せるのも大変で、支援者まで危険にさらされる」と懸念する声が上がった。
知古町自治会長の塚原右己さん(65)は、近所の自転車屋から譲り受けた古い車椅子4台を活用する計画だという。「お年寄りには地震後、津波警報などの情報を待たずに玄関の鍵を開け、何とか外に出てもらうよう伝えている」と話した。
語り部として加わった宮城県七ケ浜町の行政区長鈴木享さん(59)は、90代女性を地域住民が協力して運んだ事例を紹介。「隣近所と普段から交流し、気軽に支援を頼める関係を築くのが現時点で最良の方法ではないか」と強調した。
自動車避難の可能性も探った。地域は住宅が密集し、道路も狭い。議論の中で、渋滞の危険を回避するため、各自治会で要援護者に限って車で運ぶためのルールを作るアイデアも出された。
尾鷲市は南海トラフ巨大地震の際、最短4分で高さ1メートルの津波が到達すると想定される。避難は一刻を争うため、家族で避難先を定めるのが重要で、農業船津智子さん(65)は「それぞれが避難場所を決め、お互いに探しに行かないことにしている」と語った。
震災では津波が迫る中、要援護者が家族に「置いていけ」と言ったため、やむを得ず避難したケースが各地であったという。生き延びたことで周囲から責められたり、罪悪感を抱いたりする人もいる。
「緊急事態なので、決して見捨てたわけではない」と木村理事長。要援護者の避難支援には限界があるとの認識を地域で共有した上で、さまざまな対策を講じ、最善を尽くす姿勢の重要性を訴えた。
http://news.goo.ne.jp/article/kahoku/life/education/kahoku_K201305260A0A103X00001_223851.html