学校や塾をはじめ二百数十の有名中学合格者の家庭を訪ね、中学受験の現状を取材してきた清水克彦さんは、「中学受験では、子供の世の中に対するアンテナの張り具合を問う、本当の意味での“考える力”を求める問題が増えています」と語る。
「考える力を伸ばすキーワードは“はみがきよし”(は=話す、み=見る、が=書く、き=聞く、よ=読む、し=調べる)。学校や塾ではできないことを、家庭内でじっくり取り組みたいところです」
清水さんが提案するのが「仕事は家庭に持ち込め」である。
「テレビのニュースキャスターが“アベノミクス”や“金融緩和”と語っても遠い世界の話ですが、パパやママの仕事場での話と結びついた形で聞けば、グンと身近に感じられます。政治や経済に結びつく、子供にとって一番身近な機会になるのです」
清水さんが取材したある家庭では、毎晩10時からの15~30分を、父親と子供が世の中の動きについて話し合う時間と決めて習慣化していた。父親は「地球温暖化」「年金問題」など試験に出そうなテーマにかかわる新聞記事をスクラップして、話題づくりに役立てていたという。
「毎日が無理なら週に1回でもいい。要は、日時を決めておくことが大事です。話のテーマも堅苦しい時事問題だけでなく『春の選抜高校野球で済美の安楽投手に722球も投げさせたのは是か非か』『スキージャンプ競技の高梨沙羅ちゃんは、どうしていつもいい順位をキープできるのか』など、子供がとっつきやすいものも取り入れればいいでしょう」
また清水さんは「大人が楽しそうにしていれば、子供は寄ってくるもの。これを利用しない手はない」という。たとえば新聞を黙って読むのではなく、「これはおもしろい!」「これは困ったことになった!」など、喜怒哀楽をややオーバーに口で表現すると、子供は「なに? どうしたの?」と興味を示すというわけだ。
家族で見るテレビの近くに、常に地図帳や地球儀を置いておくのも効果的だ。「たとえばサッカーW杯予選の日本対ヨルダン戦を見ていて『ヨルダンはどこにあるの?』『どんな国?』と子供が聞いてきたときは、日本や世界について語るのにいいチャンス。そんなときに地図帳や地球儀があれば、すぐに答えられますし、地図帳に付いている人口、面積、どんな産業があるかなどの資料を活用すれば話題が広がります。ところが、もし答えられずにうやむやにしてしまうと、『夜中まで起きて応援したのに負けちゃった』で終わってしまいます」
一方、ラジオは“聞く”力を養うのに最適だ。清水さんのおすすめは「文化放送やTBSなどで夕方5時台に放送される、全国向けのコンパクトなニュース」である。「夕食の準備をしがてら、ママと子供で一緒に楽しんではいかがでしょうか。その後夜のテレビニュースを見ると、理解が深まります」
テレビ、ラジオとくれば、次は新聞だ。新聞には考える力をつけるための材料が、ふんだんに盛り込まれている。だが、小学生に新聞を読む習慣をつけようとしても、さすがにハードルが高い。
そこで清水さん自身が、子供が新聞に親しむように実践してきたことがある。まず、幼稚園のときには、ポストに配達された新聞を取ってくる係を任せた。そして小学校1年生から3年生までは、新聞の天気予報を報告する係、4年生からは1面と社会面の見出しを報告する係を任せた。
「見出しを読み上げるのに慣れてきたら『何が書いてある?』などと質問して、少しずつ中身も読ませるようにしました。私が仕事をするうえで実際に必要な情報でしたので、子供も真剣になります。取材したご家庭でもよく耳にしたことですが、自分の考えをちゃんとした文章でわかりやすく表現できるようになるには、本と新聞を読ませることが効果的といえます」
また、活字に親しんでいない子供が新聞に親しむために、こんな方法もあるという。
「3つの記事を選んで、どれを1面、2面、3面にするかを家族みんなでやってみるのです。そして、なぜその順番に並べたかを一人一人が答えていくと、人によって考え方が違う、新聞もそうしてできているといった発見があります」
清水さんによると、リーマンショック前後くらいから、中学受験の入試当日に子供の手を引くパパの姿が増えているように感じるという。
「パパが積極的に受験に関与するのはいいことなのですが、行き過ぎは禁物です。ママは子供の一番の相談相手でなければならないので、一喜一憂しやすくジェットコースターのように感情が動くのは仕方ない。だからパパは、子供の歩みを止めさせたり、逆戻りさせたり、寄り道をさせたりなど、観覧車のようなゆったり余裕のある空間を作ってほしいですね」
http://news.goo.ne.jp/article/president/life/president_9487.html
http://president.jp/articles/-/9487?page=3