少子化が進む中、退職後の中高年に学ぶ機会を提供しようと、シニア向けの大学入学制度を設ける大学が増えている。本格的に学士取得を目指すシニア層をターゲットに、入試を簡略化したり、奨学金制度を設定したり、キャンパスに溶け込めるよう特別ゼミを開いたり。中高年にも好評で「長年の夢をかなえたい」「資格を取りたい」「若い世代と交流したい」など、入学希望者も少しずつ増えている。(佐々木詩)
■年齢×1万円減免
大阪商業大学(大阪府東大阪市)は平成19年度から、中高年の学び直しの機会を作ろうと「シニア特別授業料減免制度」を創設した。入学年度の4月1日の年齢が55歳以上の入学者を対象に、年齢かける1万円を4年間毎年授業料から減免するという。「55歳なら55万円を毎年値引きします。上限は総授業料分の75万円。同窓会費用など諸経費はかかりますが、低コストで大学で学んで頂けると思います」と広報入試課の小野昭展さんは説明する。
大学側がここまでしてシニア入学を促す理由は、少子化にともなう受験者数減だけが理由ではない。同大では、学生の多様化を目指し、留学生をはじめ、さまざまな年代の学生を積極的に受け入れているという。「今の学生は核家族化のなかで成長し、年配者と接する機会が少ない。大学でさまざまな年代の人と触れ合い、考え方を学ぶことは学生にとってプラスになる」と小野さん。これまで、55歳から83歳の16人が同制度で入学したという。
■20代に混じって飲み会も
今年3月末に卒業した中西明さん(63)もその一人。経済学部を卒業し、優秀な成績を収めた学生に贈られる「谷岡賞」も受賞した。中西さんは「知らないことを知るということは楽しい。充実した4年間だった」と振り返る。
中西さんは高校卒業後、大阪市水道局に勤務。58歳で早期退職し、「もう一度学びたい」と社会人入試を決意したという。「戦後の日本経済の講義は、自分の生きてきた道の復習みたいだった」と話す一方で、“AKB48の総選挙”が一体何の選挙か分からないなど、戸惑うこともあった。
「若い子たちと一緒に学ぶのは、最初恥ずかしいと思ったけれど、時がたつにつれ、語学の授業で分からないところを聞いたりするうち、打ち解けられた」と中西さん。卒業論文のテーマは「東インド会社」。総数208単位を取得した。就職が決まった20代のクラスメートとは飲みに行ってお祝いした。中西さんは今後も科目等履修生として同大などに通うといい、「できるだけ、勉強を続けていきたい」と目を輝かせる。
■大学が不安解消のお手伝い
それでも中高年が大学で学ぶとなると、不安はつきもの。若い学生の中に入っていく勇気がない、大学でどんなふうに学ぶのかわからない…そんな不安に対応しているのが平成20年度から始まった神戸山手大学(神戸市中央区)の「シニア50+(フィフティプラス)入試」だ。
対象は50歳以上。入学後は、同入試で入学した学生を対象にした「ゼミ」が開かれ、科目の履修の仕方や、リポートの書き方など、学生生活の基本を教わる。制度を導入した初期のころは「ネクタイは外しましょう」と“若々しい”服装のアドバイスも。キャンパスライフへの不安解消をサポートしているという。
同大では毎年10人前後のシニア学生が入学している。ゼミ以外はほかの学生たちと同じカリキュラムで4年間学ぶ。同大入試課は「若い世代から影響を受けながら同じ世代とも交流できる。シニアの学生には好評です」と話している。
【メモ】シニア世代向けの大規模な大学開放の動きは、平成13年、広島大学の「フェニックス入試」が最初といわれている。同大では50歳以上の定員枠(学部によって異なる)を設け、小論文や面接などの入学試験を実施。その後、団塊の世代の退職期を迎え、18年ごろから全国的に広がった。文部科学省によると、シニア層の大学入学者数の統計はないものの、61歳以上の大学院(修士課程)への入学者数は22年度に313人と、13年以降最高を記録。今年度も302人と2番目に多く、シニア層の学び直しは広がりを見せている。
http://news.goo.ne.jp/article/sankei/life/education/snk20130505543.html