長寿日本一!長野県民が、50年前に始めた週間
厚生労働省が発表した2010年都道府県別生命表で、長野県の平均寿命が初めて男女ともに全国で1位になった。長野県は1990年から5回連続の1位(男性)で、1人あたりの老人医療費も日本で一番安い。
そこで注目されるのが長野県佐久市にあるJA長野厚生連・佐久総合病院だ。「地域医療の先進エリア」として知られる佐久市は、平均寿命が長野県よりもさらに0.5歳程度長いうえに、1人あたりの老人医療費も安い。なぜ、長野県佐久地域は「健康長寿の先進エリア」となったか。佐久地域外に住む私たちは、どうすれば長生きできるのか。
■日野原重明に並ぶ天才医師、その名も
戦後日本の医療界には、2人の天才がいました。それは今101歳になられた日野原重明先生と、今生きていれば102歳になる若月俊一先生です。日野原先生は、アメリカの良質な医療を日本に普及させるという強い熱意で、お金に余裕のある層を対象にした聖路加国際病院を発展させてきました。
そんな日野原先生とはまったく対極の位置にあったのが、若月先生です。若月先生は戦前の治安維持法で逮捕・拘留され、(左翼からの)偽装転向をして長野県佐久に逃げるような形でやってきたのです。
私は冗談で言うのですが、若月先生が熱心に辺鄙な農村を回るようになったきっかけは、必死で農民たちのご機嫌をとり「若月先生は立派な人で、悪い人じゃない」という評判をとって、当局の目を逃れたかったのもしれません(笑)。それぐらい地域医療は経済合理性とはかけ離れたもので、ある種の強い使命感のようなものがないと関われないものです。
若月先生は、「サク(佐久)病院とはサケ(酒)病院だ」とよくおっしゃっていました。患者である農民が本当に必要なものを見極めるためには、診察だけでなく、農民の生活にまで入り込んで取材しなければならないと考えたのでしょうか。
例えば、私にも地域医療の現場でこんなことがありました。ばあちゃんから、夜中の2時に「膝が痛くて歩けない」と電話がありました。「ばあちゃん、じゃあ明日朝にでも往診に行くよ」と伝え、朝6時に出勤すると、ばあちゃんが診療所に歩いてきている(笑)。逆に、10のことを1しか言わないじいちゃんから「ハラが痛い」と電話があったときは、その瞬間に自宅を飛び出し、大雪の中を往診に行ったことがありました。実際に目の前の患者の訴えに対応する一方で「本当に必要なもの」がなにかを探るのが佐久病院流のやり方なのです。
しかし現在の医療制度は、患者たちのウォンツ(欲求)を満たすことばかり考えているような印象を受けます。患者を消費者として捉えれば、それも正しいのかもしれませんが、本当に必要な医療行為なのかは別の問題です。膝が痛いというのは、話を聞いてほしいだけかもしれない。子どもを小児科で診てもらいたいというけど、実際はどこの家庭にでもあるような子育てにまつわる不安を解消したいだけかもしれない。医療用ヘリコプターがない地域に、「ドクターヘリが欲しいですか」と問えば、誰もが「はい」と答えるでしょう。しかし、優先すべきことが別にあるのではないか。逆に「俺は元気だ」と言い張る人からも心の内を覗こうと「聴“心”器」を当ててみれば、病気が見つかったりするものです。
佐久病院に、経営方針はほとんどありません。そのときの「農民のニーズに応じる」というのがほぼ唯一で、それに付け加えるならば「弱い者を支える」といったことぐらいです。
ここでのポイントは、「ニーズ」という言葉です。言語化されておらず、それを自覚しているのかどうかわからない状態の農民に対して、一緒に酒を飲んで話を聞き出すぐらいの取材をしてから、健康な体を維持できるよう促していく。
お金にはならないし、短期的にすぐに成果が出ることもありませんでしたが、20年、30年と経つと国際的にも認められはじめ、40年、50年経つと、みなさん(プレジデント編集部)のように長寿の秘密を取材してみたいと思うようになるわけでしょう(笑)。