富士通が平成24年8月にNTTドコモから発売した初心者向けスマートフォン(高機能携帯電話)「らくらくスマートフォン」が高齢者らに好評だ。ボタンのような感覚で操作できるタッチパネルやひと目で分かる画面表示など、初めてスマホを手に取るユーザーが安心して使える機能が受け入れられた。
らくらくスマホのプロジェクトが立ち上がったのは23年春。その3年前には米アップルの「iPhone(アイフォーン)」が登場し、スマホ市場が成長の兆しを見せていた。富士通は従来型携帯電話で初心者向けの「らくらくホン」シリーズを展開しており、13年の発売以来2100万台を売り上げた。「スマホにも“らくらく”を、というニーズがあるはずだ」との声が社内から上がった。
「まず取り組んだのは市場調査だった」。開発を担当したユビキタスビジネス戦略本部の上原恵次氏は語る。事前の調査で、らくらくホン利用者の4割がスマホへの乗り換えを希望していたことは分かっていた。その上で、確実なニーズを製品に反映するため、1年間の市場調査で、高齢者が具体的にスマホに何を求めるのかを探った。
3千人以上もの国内外の高齢者に、生活習慣や求めるデザイン、必要な機能などのアイデアを聞き集めた。試作品のモニター調査で、2カ月間、100人以上に10回以上にわたって評価をしてもらった。その結果、らくらくスマホに期待されたのは「画面の見やすさや大きさ。タッチ画面の操作性の魅力。そしてもうひとつは『スマホへの漠然とした興味』」だった。このヒントをきっかけに、初心者向けのスマホのコンセプトを固めていった。
市場調査の結果がまとまると、開発チームも動き出した。最初の難関はタッチパネルだった。従来型の携帯電話に慣れた高齢者の操作への戸惑いが想定された。「目指したのは『怖がられないスマホ』。どこを触っているか分かるタッチパネルを目指した」(上原氏)。
実は、らくらくスマホにボタンを取り付けるか議論もしたという。「押す感覚が得られるタッチパネルが本当に必要なのか」「先行例がない」。何回も議論を繰り返し、たどり着いたのは「富士通が本気で作る製品。使いやすいタッチパネルを作ろう」という結論だった。
触って押し込むような感覚など、ボタンのような手応えのある反応を盛り込むという技術的な課題を乗り越え、圧力を検知する新構造のタッチパネルを開発。さらに、高精細な画面や、本体の小型化にも注力した。
もうひとつの問題点は、いかに表示画面をわかりやすくするかだった。採用するOS(基本ソフト)を開発したグーグルと交渉し、高齢者向けの独自の表示を採用した。らくらくホンで築いたノウハウを使って文字の大きさ、色合い、ボタンの大きさ、配置を決めた。電話、メール、電話帳の大きなボタンが、らくらくホンの象徴。スマホでもこの3機能をわかりやすく最初の画面に配置し、使う人の安心感に配慮した。
らくらくスマホが目指すのは、スマホに乗り換えるメリットを提案すること。製品化とともに新しいサービスも始めた。専用の交流サイト「らくらくコミュティ」だ。
「スマホならではの価値を提供したかった」。ユビキタスサービス事業部の熊沢剛氏は話す。スマホの魅力は手軽にインターネットが使えることだ。らくらくコミュニティーは食や健康、写真、旅など、高齢者の関心が高い分野で利用者同士が交流できるサービス。利用料無料で、サイトに広告も載せず、専門スタッフが24時間対応する。
多くの利用者が簡単で楽しく、そして初めて交流サイトを利用することを見込んだ。「ネットを使いたいけど、不安な人もいる。そんな人にらくらくスマホを使うことで簡単で安心なつながりを提供したかった」(熊沢氏)。会員数は5万人に迫っている。
富士通は6月、らくらくスマホをフランスで展開する。富士通のスマホにとって初の海外展開で、現地の初心向けスマホとして販売される。日本で受け入れられたコンセプトやサービスを変えずに、世界の初心者に新しい価値を届ける狙いだ。
「国内外でらくらくスマホを続けていくため、これからも完成度を高める。使いやすさ、よりよいものを早く届けたい」。上原氏ら開発チームは、すでに次の改良・開発を見据えている。
http://news.goo.ne.jp/article/sankei/business/snk20130428531.html