手足が不自由な人の日常をサポートする介助犬。自立を目指す障害者には心強い存在だが、社会への浸透は十分とはいえない。公共施設などでの同伴受け入れを義務付けた身体障害者補助犬法の施行から10年、認知度は当初より低下しているという調査結果もあり、課題は多い。
「エル君、テイク電話」
兵庫県宝塚市の会社員、木村佳友さん(52)が声をかけると、ラブラドルレトリバーの「エルモ」(雄、10歳)が受話器をくわえて駆け寄った。落とした物を拾ったり、冷蔵庫から飲み物を取ってきたり。そのたびに木村さんは「グッド!」と頭をなでる。
木村さんは27歳の時に交通事故で、下半身や手が不自由になった。愛犬「シンシア」が訓練を受けて介助犬になったのを機に、「私たちが一緒に街を歩く姿が、自然な光景として受け入れられる社会になれば」と啓発に取り組んだ。そうした行動が共感を呼び、補助犬法の成立に結びついた。
補助犬法は超党派の議員立法で2002年10月に施行された。公共施設や交通機関、飲食店などは、介助犬、盲導犬、聴導犬の同伴を拒んではならないと定めている。07年の改正では、都道府県などに苦情や相談を受け付ける窓口も設置された。国は近く、他の外来患者らへの配慮などを記した医療機関向けの補助犬受け入れマニュアルを作成する予定だ。
■店や施設で同伴拒否
支援を進める事業所もある。京王プラザホテル(東京)は07年、敷地内に補助犬専用のトイレを設け、一緒に宿泊する際は餌を入れるボウルやマットも無料で貸し出している。JA共済は小学生向けの啓発イベントを実施。講師を招いて補助犬法の勉強会を開く企業もある。
ただ、こうした取り組みは一部にすぎない。木村さんが会長を務める「日本介助犬使用者の会」が昨年秋、会員7人から聞き取ったところ、過去2年間で飲食店や医療機関で同伴を拒否された事例は32件あり、その3分の1が、法律のことを説明しても受け入れてくれなかった。
関西福祉科学大の松中久美子准教授(福祉心理学)らが11年、全国の20~60歳代の男女3000人を対象に行った調査では、補助犬法について「名称も内容も知らない」と答えた人が64%に上り、04年の調査時より9ポイントも増えていた。松中准教授は「このままでは介助犬の同伴を拒否するケースが増えかねない。国や自治体はもっと啓発に力を入れるべきだ」と指摘する。
■育成資金は寄付頼み
認知度を上げるには、介助犬の活躍を多くの人が目にする機会が必要だ。しかし、国内で活動する介助犬は67頭(4月1日現在)で、1頭もいない県が半数近くある。介助犬が必要な人は全国に1万5000人いるとされるが、そうした人でさえ存在を知らないこともある。
要因の一つに、資金面の問題がある。介助犬1頭を育成するには300万~500万円が必要だ。だが、NPO法人「日本介助犬アカデミー」(神奈川)によると、11年度に介助犬の育成に助成金を支出した都道府県は全体の2割ほどで、金額も1頭あたり150万~198万円だった。介助犬を育成・貸与する団体は、不足分を寄付などに頼っているのが現状だ。
国内の介助犬育成の3割強を手がけている社会福祉法人「日本介助犬協会」(同)は09年、介助犬や訓練士を育成する全国初の専門施設を愛知県長久手市に開設した。年間を通じて15頭前後が訓練を受けるが、認定基準が厳しいこともあり、実際に介助犬になれるのは5頭ほど。訓練部長の水上言(こと)さんは「多くの介助犬や訓練士を世に送り出すためにも、公的な支援の拡充が必要」と訴えている。
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