大気汚染の原因となる微小粒子状物質「PM2・5」。中国から日本へ飛来し健康への影響が心配されているが、たばこを吸うことでPM2・5をまき散らしていることを喫煙者はご存じだろうか。PM2・5はさまざまな病気のリスクを高めるだけに、専門家は「禁煙でない飲食店などのPM2・5濃度は北京並みかそれ以上。身近にリスクがあることを認識してほしい」と警鐘を鳴らしている。(平沢裕子)
◆肺の奥深くまで
PM2・5は大気中に浮遊する粒子状物質(PM)のうち、直径2・5マイクロメートル(マイクロは100万分の1)以下の総称。車や工場の排ガスに含まれるすす成分が代表格だが、たばこの煙もその一つで、フィルターを介さずに周囲に広がる副流煙に多い。
健康への影響が問題となるのは、粒径が小さいため肺の奥深くまで入りやすく、長期に大量暴露することで粒子表面の有害物質が肺に炎症などを起こすためだ。その結果、ぜんそくや肺がんなど呼吸器系疾患だけでなく、心筋梗塞や脳卒中、糖尿病、がんなどさまざまな病気のリスクを高めることが分かっている。
産業医科大学・健康開発科学研究室の大和浩教授は「中国からのPM2・5の飛来はせいぜい冬場の3カ月。年間にならせば今のところ、健康への影響が問題となる量ではない。健康への影響ではむしろ禁煙でない飲食店などの受動喫煙の方が問題だ」と指摘する。
◆喫煙喫茶、北京並み
国のPM2・5の環境基準値は1日平均で1立方メートル当たり35マイクログラム以下、かつ1年平均で同15マイクログラム以下。世界保健機関(WHO)のガイドラインはこれより厳しく、1日平均で同25マイクログラム以下、かつ1年平均で同10マイクログラム以下としている。
禁煙でない飲食店のPM2・5濃度はどの程度なのか。日本癌(がん)学会など18の学会でつくる「禁煙推進学術ネットワーク」が喫煙可能な喫茶店を測定したところ、平均同371マイクログラムと北京市の屋外と同レベルだった。分煙としてガラス壁で喫煙席が分離されていても、出入り口がエアカーテンの場合、禁煙席にも煙が流れ込み、同200マイクログラムを超えることが確認されている。
世界32カ国の室内の空気環境を比較した調査では、建物内が全面禁煙となっている国の室内のPM2・5濃度は同8~22マイクログラムだったのに対し、喫煙が容認されている国ではその数倍、最大で22倍高かった。たばこの煙には約70種類の発がん性物質が含まれており、受動喫煙防止法を導入した国では心筋梗塞などのリスクが減ったとの報告もある。
大和教授は「受動喫煙による死亡リスクは中国から飛来するPM2・5の値よりはるかに高い。喫煙者が吸い込んだ煙は3~4分間は排出されており、その間、喫煙者はPM2・5をまき散らすことになる。建物内では分煙しても受動喫煙は防げず、解決には全面禁煙しかない」と話している。
■子供や高齢者は要注意
米国などの疫学調査によると、PM2.5の数値が1立方メートル当たり10マイクログラム増えると、肺がんの死亡率が14%、心臓や肺の病気の死亡率が9%、全死亡率が6%それぞれ増えるとされる。
特に影響を受けやすいのは、呼吸器系や循環器系の疾患のある人や小児、高齢者ら。大気の汚染濃度によって症状の悪化や死亡率の上昇が見られたとの報告もある。
大気中のPM2.5を個人がコントロールするのは難しい。環境省は対応としてマスクの着用を挙げる。高性能の防塵マスクは微粒子の吸入を減らす効果があるとするが、一方で着用すると息苦しくなるため、長時間の使用には向かないとしている。
一般用マスクの性能はさまざまだが、大和教授は「どんなマスクも遮り効果はあり、しないよりはまし」としている。
産経新聞
http://news.goo.ne.jp/article/sankei/life/medical/snk20130402528.html