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いのちをつなぐ:/5止 生前の付き合い重視 悩みに耳傾け、自殺兆候に目配りも /新潟

「実はこの人、自殺で死んだんです」

村上市荒島にある「東岸寺」の野田尚道住職(59)は約10年前、葬儀を営んでいた当時40代後半の男性檀家(だんか)の遺族からぼそっとした声で告げられた。遺族が男性の思い出を語る中で思わず出た言葉だった。男性は外回りの職場から慣れないデスクワークに異動したことがきっかけで、うつ病を発症していたという。
仕事熱心で快活だった男性と自殺が結びつかなかった。野田住職は「男性が追い詰められていたことを知り、自分と檀家の関わりが希薄だったと気付いた」と振り返る。以来、檀家の相談に積極的に応じたり、寺に来てもらえるようイベントを開いたりと生前の付き合いを重視し、自殺の兆候に目を光らせるようになった。
全国の寺院で組織するNPO法人「自殺防止ネットワーク風」(本部・千葉県成田市)は、自殺志願者や自死遺族の相談に応じる自殺防止活動に取り組んでいる。野田住職も09年に加入。子どもの発達障害に悩み何度も寺を訪れる夫婦など、これまで約90組の家族や個人の相談を受け、自殺志願者の「駆け込み寺」となっている。
「夫と息子が自殺した。もう生きていけない」。夜遅く、女性が逼迫(ひっぱく)した声で東岸寺に電話してきた。自殺したのは自分が原因だと自責する女性に、野田住職は「後追いしても夫と息子は絶対浮かばれない」と落ち着かせた。「相談員はとにかく傾聴が大事」と野田住職はいう。
自殺は残された家族が最もつらい思いをする。少しでも悩みを和らげようと、相談者が望めば仏教を説くこともある。「苦しみはあるが、生きているからこそ喜びもある。悩みを一人で抱え込まないで誰かに話してほしい」
◇  ◇  ◇
大切な人を自殺で亡くした悲しみを分かち合おうと、自ら立ち上がる人々もいる。
自殺で身近な人を失った県内の自死遺族が集う「虹の会」。2カ月に一度、新潟市内で、身近な人が自殺した体験談を語り合っている。悲しみを分かち合うことで生きていく希望を取り戻すのが狙いだ。
虹の会設立メンバーの石橋秋美さん(53)は03年に父親(当時66歳)を自殺で亡くした。原因が分からず、父の悩みに気付かなかった自分を責めた。家族みんなが悲しみをこらえているのだからと弱音も吐けなかった。

そんな中、夫を自殺で亡くした女性と出会った。同じ悩みを持っていると知り、初めて自分の気持ちを正直に話せた。「孤独な心に希望の光が差し、生きていけると思った」と石橋さん。2人で虹の会を設立した。
「自殺する意味がわからない」と心ない声をかける人もいる。逆に、気を使われすぎて話自体が禁句になる場合もある。自死遺族のほとんどが大切な人を亡くした後、さらに苦しみを受けていた。石橋さんは強調する。「何もできないけど、ただ話を聞いてもらうだけ。みんなが互いに支え合う」【真野敏幸】=おわり
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■ことば
◇自殺防止ネットワーク風
自殺志願者の駆け込み寺として08年に千葉県の長寿院が中心になって設立。活動に賛同した全国約50寺院が宗派を超えて自殺相談窓口を開いている。県内では、佐渡市の称光寺▽三条市の長泉寺▽新発田市の布施庵が参加している。東岸寺への相談は0254・62・4367。
◇虹の会
身近な人を自殺で亡くした県内の遺族が世話人となり、07年に設立。遺族の苦しい胸の内を語り合い、気持ちの安定を図ることを目的にしている。会の集まりは偶数月の第1木曜、午後2~4時。場所は新潟市中央区の新潟ユニゾンプラザハート館。参加希望者は県精神保健福祉センター025・280・0113。
3月30日毎日朝刊

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130330-00000050-mailo-l15&p=1

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