周囲の人のうつ病や自殺の兆候に気付き、相談に乗るなどして自殺を未然に防ぐ人を「ゲートキーパー(門番)」と呼ぶ。自殺対策に効果的として、県などは09年から養成講座を開いてきた。県によると、県内で約1万5000人のゲートキーパーが誕生している。
県理容生活衛生同業組合は、昨年9月からゲートキーパー養成講座を始めた。理容師は散髪する1時間近く、客と1対1で向き合う。会話が弾んで個人的な事情や生活ぶりを聞くことも多く、自殺の兆候に気づく可能性があるためだ。既に組合員約2300人のうち約1000人が受講した。
同組合の早川幹夫理事長(68)は「組合員に聞き取り調査をしたところ、顧客が死ぬ直前に理容店を訪れ、身をきれいにしてから自殺するケースが少なくなかった。もっと話を聞いてあげればよかったと何年も悩む理容師は多い」と話す。
新潟市中央区で理容店「ヘアークラブアクト」を営む曽山正明さん(69)もその一人だ。3年前、40年来の友人男性(当時66歳)を自殺で亡くした経験から、昨年10月にゲートキーパーになった。
友人男性は曽山さんの店で散髪した2日後、自宅で首をつって死亡した。男性は地元の消防団に入るなど精力的でよくしゃべる人だったが、病気で妻を亡くし、自身も病気で下半身が不自由になり元気をなくしていた。子どももいたが既に自立しており、1人暮らしだった。
最後に来た時は、いつも通り髪を切りながら世間話をした。「事情は知っていたが、悩みに立ち入らないようにと気を使っていた。あの時、勇気を持って聞いてあげていれば」と曽山さんは悔やむ。今は散髪の最中だけでなく、ちょっと変だなと感じれば「コーヒーでも飲んでいきませんか」と声をかけて話を聞くようにしている。
◇ ◇ ◇
県薬剤師会でも自殺防止の一環で、ゲートキーパー養成講座を10年から開いている。これまで約130人の薬剤師が受講した。
新潟市内で薬局を経営する薬剤師の国井洋子さん(57)は2年前、ゲートキーパーになった。薬局に入ってきたときに普段と様子が違ったり、睡眠剤や精神安定剤の処方が増えたりした人には「眠れていますか?」と一言声をかける。薬の過剰服用による自殺を防ぐため、余った薬をためていないかも確認する。
「死にたいのに、これだけ飲んでも死ねない」。薬の飲み方について相談を受け付けている国井さんの薬局に利用客の40代女性から電話が掛かってきた。「何錠飲んだ?」「飲んで何時間たつ?」「その量では死ねないよ」。相手を思いやりながらも冷静に対応する。
翌日、国井さんは女性に電話して安否を確かめた。「どうして電話してきたの?」と聞かれて「心配したからだよ」と返すと「大丈夫だよ」。少し安心した。だが気は抜けない。
県薬剤師会の仲村スイ子副会長(56)は「薬局は患者が病院より後に来る最後の場所。ここで自殺のサインに気付いてあげたい」と話す。=つづく
3月28日毎日朝刊
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130328-00000011-mailo-l15