「子どものころからいじめを受けていて、親にも助けてもらえず怒られてばかりだった。学校の友人関係も駄目、就職もできない。ずっと人生がうまくいかない」
365日24時間、電話で悩みを受け付ける社会福祉法人「新潟いのちの電話」にある2本の電話が鳴りやむことはない。相談員は受話器の向こうから聞こえる声をただ優しく受け止める。悩みを吐露した人たちは、話すうちに落ち着きを取り戻し、少しすっきりして日常生活に戻っていく。
1984年に創設された新潟いのちの電話の相談員は全員ボランティアだ。しかし、その資格は厳しく、約1年間、うつ病やカウンセリング方法などについて研修して初めて相談を受けられるようになる。相談員に認定されると、シフト制で月2~3回ほど相談を担当する。現在、相談員は約170人で8割が女性。主婦や福祉関係の職場で働く人が多い。身近な人の自殺がきっかけだった人もいる。
昨年の相談件数は2万384件。人生の悩みや家族の愚痴、借金、病気の苦しみなど内容はさまざまだ。全体の約1割にあたる1980件が自殺の恐れがある内容だったという。必要に応じて病院の受診や弁護士への相談を促す。
新潟いのちの電話の本間サチ子事務局長(65)は「誰かにただ聞いてほしい。今、誰かとつながっていたい人から電話が来る」と分析する。いのちの電話には医者やカウンセラーにはない敷居の低さがある。
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その一方で、電話のみの相談には限界もある。
「今、手首から血が流れています」。うつ病を患い、リストカットした女性から掛かってきた電話。「近くに家族はいますか。すぐに主治医の先生に電話してください」と相談員が緊迫した声で呼びかける。それ以上のことができないのがもどかしい。
新潟いのちの電話では昨年、薬の過剰服用やリストカットなど実際に自殺(未遂)を実行しながら電話してくるケースが9件あった。電話が終わると、その人がどうなったのか確認できない。楽になって悩みから抜け出たという人もいるし、その後入院するまでに心の病が悪化する人もいる。電話のやり取りは互いに匿名でしているため、気軽に相談しやすい半面、その後をほとんど把握できない欠点がある。
新潟市もいのちの電話と同様の電話相談窓口を開設しているが、自殺の危険性が高い場合は、相談者本人の了解を得た上で場所を特定し、市社会福祉協議会の保健師や警察官が直接会いに行く仕組みになっている。
直接会いに行ったケースはまだ数例しかないが、同市こころの健康センターの担当者は「他機関と連携しやすいのは、行政ならではの強み」と説明する。
それでも、悩みをただ電話で聞くだけで救われる命がある。本間事務局長は「電話相談に限界はある。けれどもか細い糸で確かに誰かとつながっている」と信じている。
新潟いのちの電話は(025・288・4343)。24時間、年中無休。=つづく
3月27日毎日朝刊
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