原発事故なんて、まさか--。東京電力福島第1原発の事故は、こんな楽観を吹き飛ばした。原発のある市や村のほか、県境地域や県外も、重大事故に備え始めた。
「事故が起きたらまず地元の安全確認。県や町独自の放射線測定データを確かめます」。湯沢町総務課の高野敏明・防災管財班長は言う。町は群馬県境で東電柏崎刈羽原発から約60キロ。原子力規制委員会が避難計画作りの目安とする半径30キロからは遠い。「原発事故は津波みたいに思っていた。離れているから影響ないと」
だが福島の事故で「風向き次第などで影響が出る」と思うようになった。町議会は昨年「柏崎刈羽原発の再稼働を認めない意見書」を国と県に送った。町は今月23日に県主催の原子力防災訓練に参加し、柏崎市と刈羽村からの避難者約200人を受け入れる。「(原発防災は)まだ勉強不足。訓練で学びたい」と言う。
富山県境の糸魚川市も、同訓練で避難者を受け入れる。柏崎刈羽原発から約80キロ、北陸電力志賀原発(石川県志賀町)から90キロ弱だ。同市防災室は「両原発とも気になる。昨年は北陸電本社に話を聞きに行った」と話す。今後、市の原子力防災計画作りを目指す。
県外では長野、栃木、群馬県が昨年、柏崎刈羽原発と事故時の連絡協定を結んだ。
同原発のある柏崎市は従来、防災訓練で原発から約10キロの市内に市民を避難させてきた。だが23日の訓練では60~90キロ離れた湯沢町、糸魚川市、新発田市に避難者計約300人を送る。柏崎市防災・原子力課は「以前はたとえ事故が起きても、過酷事故にはならないとの思いがあった。今は広域避難に備えるようになった」と言う。
それでも今回の想定は原発から5キロ圏の住民避難だ。外側の5~10キロ圏には市役所、警察、消防、事故対策拠点となる原子力規制委柏崎事務所(オフサイトセンター)があり、商店も多い。ここが避難すれば10キロ圏外の市民も生活に困る。対応は今後の課題だ。
オフサイトセンターも備えを始めている。水や食糧の備蓄は従来の100人、3日分から同10日分に増やした。来年度は、事故時にも事務所に滞在できるよう約2億円をかけ、外気の放射性物質の流入遮断フィルターなどを設置する。ただ設置時期や、フィルター設置後でも避難せざるを得ない事態への対応は未定だ。センターの建物を所有する県は昨年、「(場所を変え)複数のセンターを設置すべきだ」と国に意見を出したが、返事はまだない。
「(過酷事故の)可能性はゼロではないが、現実にはありうるのか、と考えていた。今は、実際に起きるんだと思っている」。柏崎刈羽原発の新井史朗副所長は話す。同原発は福島事故後の2年で事故対応訓練を13回実施した。以前は年1回だった。想定は「原子炉1基の内部機器異常」から「地震や津波による複数基の異常で全電源喪失」に変えた。事故対応の指揮者が複数基の状況を1人で把握するのは難しいと気づき、1基ごとの指揮者を置くようにもした。「正直に、事故のリスクはあると説明し、理解を求めたい」と、新井副所長は話し、「なかなか難しいと思いますが」と付け加えた。過酷事故のリスクを承知で、原発をどれだけ使うのか。私たち一人一人が問われている。
3月15日朝刊
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130315-00000023-mailo-l15&p=2