国土交通省四国運輸局が開発した「津波救命艇」の試作艇が12日、高知県内で初めて公開された。
時速36キロの津波に流され、建物に衝突しても安全だという現代版「ノアの方舟(はこぶね)」は、高さ34~13メートルの津波が想定される南海トラフ巨大地震で福音となるのか。高知運輸支局(高知市桟橋通)で開かれた見学会で確かめてみた。
オレンジ色の流線形の船体は全長8・4メートル、幅と高さ3メートル、重さ3・5トン。繊維強化プラスチック(FRP)製の本体をぐるりと巻くように、発泡樹脂製の緩衝材(厚さ1・3~0・35メートル)が取り付けられている。この白い“帯”が内部の安全性を確保する。
出入り口は後部にあり、内部には25席が馬てい形に並ぶ。クッションは厚みがあり、座り心地はそこそこ良い。4点式のシートベルトでがっちりと固定され、頭部にはヘッドレストもある。転覆してもこれなら大丈夫だろう。
FRPでも鉄骨が突き破ることがあるのではという疑問を、開発に携わったIHIの担当者は否定した。自衛隊の防弾盾に使用されているポリカーボネートを、座席の背面と船体の間に張り巡らすことで、さらに強度を増しているという。
同運輸局は、高台への避難が難しい高齢者や子どもの救助を想定している。この日、みさと幼稚園(高知市仁井田)の園児22人が招待され、船内を見学した。
四つの天窓を含めて窓は八つ。壁面には電池式のLED照明もあり、密閉されていても明るい。安田絢音ちゃん(6)は「中にライトもたくさんついてるし、夜も大丈夫」と笑った。
エンジンがないため自力航行できず、津波とともに流れると、助けが来るまで船内で過ごすほかない。座席下や床下に1週間分の水や食料などを備えることができ、トイレもある。
「津波ですごく揺れても、頑張って我慢する」と木下愛梨ちゃん(6)。引率した高芝妃実乃教諭(29)は「どんな船かみんな理解してくれた。意外と居心地もよさそうだった」と胸をなで下ろした。
「避難ツールの一つとして、多くの人に知ってもらいたい」という同運輸局の丸山研一局長も、「運用法や価格など多くの課題が残っている」と認める。
船体上部に出られるはしごはあっても、長期間の閉塞生活は避けられない。幼い子どもがどこまで耐えられるか未知数だ。さらに、700万円という目標価格もネックとなる。運用面のマニュアルや、普及に向けた支援などが急がれる。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130313-00010002-yomidr-hlth