大災害・会社の一大事……非常時のコミュニケーション
大きな危機が起きたとき、どのようにして必要な情報を集め、整理して、人々に行き渡らせればよいのだろうか。
東日本大震災が11年3月11日に発生して以降、被災地対策や原発問題、東京電力・東北電力管内の停電問題など、混乱が続いた。その原因は日本政府がクライシス・コミュニケーションに失敗したからだ。
政府が犯したクライシス・コミュニケーションの失敗とは、一言でまとめれば「各論の情報」しか出てこない点にある。クライシス・コミュニケーションにおける情報発信は体系的でなければならないが、それが全くなされていなかったのだ。
体系的な情報発信とは、まず水平方向に情報が網羅されている必要がある。東日本大震災で国民はどのような情報を求めているか検討してみよう。裏を返せば国がどんな情報を発信しなければならないか、それは10項目に大別できる。
一番大切なのは、「被災者の救出」に関する情報である。行方不明者の捜索や負傷者の救護、避難所の支援がどうなっているのか。それらの現状と今後の見通しが真っ先に出てこなければいけない。
次に「ライフライン」(水道、電気、ガス)、そして「インフラ」(鉄道、港湾、道路、空港、通信)の現状と復旧の見通しが必要である。一般車両の通行が制限されていた東北自動車道が全面再開したとのニュースが突然発表されたとき、多くの人が驚きや唐突さを感じた。もっと時間がかかると思っていたところに、いきなり開通の情報がもたらされたからだ。
インフラの復旧見通しに関する情報がなかったので、企業も個人も現地に行けるかどうかわからなかった。ライフラインの見通しもわからなかったので、現地へ行っても生活できるかどうか見通しが立たず、身動きが取れなかった。もし事前に復旧予定情報が伝えられていれば、人々は行動の見通しを立てられただろう。
「飲食物対策」も欠かせない。食べ物や飲み物が来るのか、来ないのか。来るとすればいつ頃なのか。これは被災者にとっても、現地へ応援に行く人にとっても非常に重要である。
そのほかにも医療施設や薬品、医師・看護師の派遣という「医療対策」や、放射能の拡散防止などの「原発事故対策」、金融支援や復興事業、雇用創出といった「経済対策」、燃料供給に関する「燃料対策」の情報が必要である。
避難所生活は不便極まりなく、ライフラインが機能していない場所もあるので「家屋・生活雑貨対策」も大切だ。仮設住宅に入居できる時期や、一時的な疎開や転居に関する情報の必要性は高い。災害が起きると火事場泥棒的な犯罪が増加するので「防犯・治安対策」に関する情報も必要である。
これら10項目の現状と今後の見通しについて政府は情報を発信しなければならない。そうしなければ人々はブラインド状態に陥って判断できず、身動きが取れなくなってしまう。ところが枝野幸男元官房長官はこまめに記者会見を開いていたものの、内容の大半は原発対策で、必要な情報が水平方向に網羅されていなかった。
http://news.goo.ne.jp/article/president/bizskills/president_8810.html