精神疾患の親のもとで育った子どもは、様々な生きづらさを抱えることがあるという。大人になっても続くこともあり、支える取り組みが始まっている。(さいたま市内で)
中部地方の主婦(53)は、小学校低学年の時、母が統合失調症になった。被害妄想や幻聴がひどい母にかわり、家事を担うようになった。母の病気について、大人から説明はなかった。「病気のことは『話してはいけない』と何となく思っていました。家庭の事情を知られまいと、友達と深く付き合えなかった」と話す。
結婚して3人の子に恵まれたが「普通の家事や子育て」がわからず一人で悩んだという。頼りになったのは、育児雑誌だけだった。
この主婦のように、親の精神疾患について知らされずに育つ子どもは多い。幼少時に親が精神疾患になった成人への調査では、家族や医療者から、症状や対応法を説明されていたのは、わずか1割だった。
調査をした三重大看護学科助教の土田幸子さんは、事情がわからぬまま、病気の親と暮らしてきた子どもについて「家庭内のことで困っても助けを求めた経験がないために、周囲との信頼関係も築きにくく、対人関係で苦労することも少なくない」と話す。
土田さんは、仲間の医療従事者と「親&子どものサポートを考える会」を結成、毎月、津市内で生きづらさを抱えた20歳以上の当事者の集いを開く。安心して話せる場を求めて遠方からも参加者がいる。多くは集いで初めて、親の病気、生きづらさを打ち明けるという。
子どもに親の病気を伝える方法を提案する医療者もいる。看護師細尾ちあきさんと精神科医北野陽子さんは昨年4月、事業所「プルスアルハ」を設立、「家族のこころの病気を子どもに伝える絵本」の制作を進める。
2人は「何もわからないとただ不安になり、『親の病気は自分のせいかも』と誤解して自分を責めてしまうことがよくあります。子どもは、事実を受け止めて、乗り越える力を持っています。それを信じてまず、周囲の大人が伝えてほしい」と話す。「困ったら信頼できる大人に話してほしい」というメッセージを伝えることもポイントだという。
遊びや勉強、部活より、家事や、親のそばにいることを優先せざるをえない子どもたちへの支援も課題だ。
英国では、病気や障害を持つ親にかわり、責任や負担の大きい家事をする子どもを「ヤングケアラー」と呼び、各地に、そうした子ども同士が集う場がある。子どもの相談にのったり、子どもが集えるよう送迎をしたりもする。
家庭内でケアを担う子どもの研究を続ける成蹊大専任講師の渋谷智子さんは「子どもにとって、立場の同じ仲間と一緒に子どもらしく過ごす時間を持つことは、心理的、社会的な成長の上でも大切なこと」と指摘、そのうえで「日本では、『ケア』といえばまだ大人の仕事、問題と思われがちですが、それを子どもが担う家庭もあります。地域ぐるみの支援を考える必要があります」と話している。