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「あきらめてはだめ」「決定的な現象ない」 地震予知は可能になるのか

甚大な被害をもたらした東日本大震災の発生から2年が経過しようとしている。そもそも日本は世界でも有数の地震国で、津波の被害を何度も経験している。地震を予知する国を挙げての研究は長く続けられてきた。今回の震災を含め地震予知はできていないが、いずれは可能になるのだろうか。日本の地震予知に対して批判的な東京大学理学部のロバート・ゲラー教授と、地震予知連絡会の平原和朗会長に話を聞いた。(櫛田寿宏)

■平原和朗氏「ここであきらめてはだめ」

--東日本大震災をどう受け止めたか

「予測できなかったというより、マグニチュード(M)9クラスの地震は頭の中になかった。今回の震災の前にも予知連の中でいろいろな議論をしていた。東北地方は年間9センチくらいプレート(岩板)が沈み込み、地震でそれがはね返るが、これが3割くらいしか戻っていなかった。戻らない分はずるずる滑っているのだと勝手に思っていた」

○少数派の意見尊重を

--M9クラスの地震を想定する意見はなかったのか

「出てはいたが主流ではなかった。多様な意見を抹殺した覚えはないが、やはり主流の意見は発表の機会も多く議論もしやすい。少数派の意見も尊重し、あらゆる想定をすべきだという教訓が残った」

--地震の予知はできるのか

「現時点では難しい。だが、ここであきらめてはだめだ。前兆現象が見つかる可能性は完全に否定できるわけではない。多くのことが確実に分かってきているが、その一方で、また分からないことが見つかるという状況だ。あと一歩で予知ができるのか、あと百歩なのか、それさえも分からないのが現実だ」

--なぜ予知は難しいのか

「巨大な地球の内部を探る方法は地表からの観測しかない。それも地震活動を通じて解析する以外の方法がない。例えるなら、人間の健康状態を調べる手段が聴診器のみということだ。内視鏡のように体の中を直接調べるものを使えばもっとよく分かるのだが、これは地下10キロの深さに観測器を設置することに相当する。だが残念ながらそんな深さまで掘る技術もないし、そんな高温高圧の環境に耐えられるセンサーもない」

--予知はやめてしまうべきではないか?

「今不可能だからやめてしまえという議論はあるが、日本がここでやめてしまうのは世界的にもまずい。次の大地震の場所としては南海トラフが予想されるが、この地震のデータは非常に重要で、あらゆる観測網を使って調べ、地下で何が起きているのかデータやモデルを更新するところまで行わなければならないと思っている」

○範囲限定した発表も

--あと何年かすれば可能になるのか?

「前兆をとらえたとしても影響の大きさを考えると予知として一般に公開するのはむずかしいが、範囲を限定して発表することはしなければならないと考えている。南海トラフの地震の前に地震が発生するシグナルを送ってくれれば、それが地表で分かるものであれば成果を出したい。出さなかったらわれわれの実力も示せない」

■ロバート・ゲラー氏「決定的な予兆現象はない」

--地震予知は可能か

「予知は発生の日時と震源地、マグニチュードを明確に示さなければならない。これができるかといえば『ノー』だ。地震は地殻の破壊現象だ。破壊現象は非常に複雑で、正確に予測することはできない。例えば、鉛筆を両手で握って少しずつ曲げると、いつかは折れることはだれでも予想できるが、いつ折れるのか正確に予想することはできない」

●前兆に再現性はない

--地震の前兆現象をとらえれば予知できるのでは?

「東日本大震災ではあれほどの観測網がありながら顕著な前兆現象はみられなかった。警戒宣言を出すほどの決定的な予兆現象はないということだ。これまでさまざまな前兆があったとされるが、再現性はないし統計的有意さも認められない。法則性も因果関係もない」

--東日本大震災について、多くの専門家が「想定外」と言ったが

「世界的に認められている研究者もM9クラスの地震について『プレートの沈み込み帯ではどこでも起こり得る』とする論文を発表しているのだ。『想定外』であっていいはずがない」

●幻想は捨てるべきだ

--ある程度の予測はできるのではないか?

「予測というのは、特定の地域で、例えば『30年以内にM7の地震が起きる確率』を示すものだ。だが考えてほしい。これは『私が30年後に死ぬ確率が88%だ』というようなものだ。死ねば当たっただが、30年後生きていれば『残りの12%の確率で生きていると予測した』と言い逃れできる。どれほどの意味があるというのか」

--政府は発生の確率を出してハザードマップを作成した

「東日本大震災も阪神大震災も、ハザードマップ上のリスクが低いとされていた場所で起きた。『危ないぞ』といっている場所と実際に起きた場所は違うのだ。これは日本だけの問題ではなく、四川大地震が起きた中国や中米のハイチでも同じようなことが起きている。これでは『ハザードマップ』ではなく、『外れマップ』なのだ。危険箇所を示すことでそこに住む人に無用の不安を与えることになるので迷惑だ」

--今後の可能性は?

「大地震の前には前兆現象が起きるという仮説のもとに予知の研究は行われてきた。だが、100年探しても前兆現象は見つかっていないのだから、地震学者は地震予知という幻想を捨てて、本来の基礎研究を行うべきだ。その上で、東海地震の予知を前提とした大規模地震対策特別措置法を廃止し、地震が予知できないことを認めるべきだ」

【プロフィル】平原和朗氏(ひらはら・かずろう) 昭和27年、広島県生まれ、60歳。京都大学大学院理学研究科地球物理学専攻博士課程修了。京都大学防災研究所助教授、名古屋大学教授を経て京都大学大学院理学研究科教授。昨年5月まで日本地震学会会長を務め、昨年11月から現職。専門は地震学、地球物理学。

【プロフィル】ロバート・ゲラー(Robert・Geller) 1952年、米ニューヨーク州生まれ、61歳。カリフォルニア工科大学地球惑星科学研究科博士課程修了。理学博士。84(昭和59)年に東京大学助教授となり、99(平成11)年から現職。著書に「日本人は知らない『地震予知』の正体」などがある。

http://news.goo.ne.jp/article/sankei/nation/snk20130308543.html

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