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猫の「たま駅長」海外からも注目

あの「たま駅長」も70歳 赤字路線の救世主、衰えぬ人気”老後”は悠々自適

「駅の招き猫」として全国区の人気を誇る和歌山電鉄貴志川線貴志駅(和歌山県紀の川市)の三毛猫の駅長「たま」。駅長就任から丸6年を迎えた今月には、ついに「社長代理」にまで昇格した。人間に換算すると70歳近くの高齢だが、「駅長室」でのんびり寝そべりながら利用客を見守る“執務姿”は多くの人の心をとらえて離さない。「癒し」が求められる時代、今日も多くの人々がローカル線に乗ってたま駅長に会いにやって来る。(和歌山支局 秋山紀浩)

■式典に人だかり

貴志駅で今月5日に開かれた、たま駅長の就任6周年を祝う記念式典。厳しい冷え込みにもかかわらず、100人を超すファンが殺到した。家族連れ、カップル、観光客、高齢者…。老若男女を問わず人気を集めていることを実感した。

羽根付き帽子とマントの礼装姿で式典に臨んだたま。「サプライズ人事」の発表で「社長代理」に昇格し、小嶋光信社長から辞令を受け取った。駅長就任からわずか6年での異例のスピード出世は、「愛嬌(あいきょう)あるしぐさで観光客を喜ばせ続けた」ことが評価されたという。

部下の三毛猫「ニタマ」も祝福に駆けつけ、「代理」就任の記念に大理石の印鑑と「花かつお」をプレゼント。ファンから「おめでとう」「がんばれよ」などと声援がかかる中、たまは「にゃあ」と就任あいさつのひと鳴き。会場は笑い声と笑顔に包まれた。

■ユニークな経歴

たま駅長は、偶然の出会いから誕生した。

平成18年4月、南海電鉄から貴志川線の運営を引き継いだ和歌山電鉄のオープン日。貴志駅で式典を終えた小嶋社長は、駅隣の雑貨店の女性から「うちのたまちゃんがすむところがないので、駅に置かせてください」と相談を受けた。たまに会うと、その目力と存在感に「この子は貴志駅の駅長だ」とひらめいたという。

翌19年1月、たまは駅長に。就任式には全国から報道陣がつめかけ、本格的な制服と制帽をまとった駅長姿に人気は沸騰。一気に全国区の知名度を獲得し、各地で動物駅長が誕生するきっかけとなった。

20年には、和歌山の魅力を全国に発信した功績が認められ、仁坂吉伸県知事から「和歌山県勲功爵」の称号を贈られた。社内的には22年1月に執行役員、23年1月に常務執行役員、そして今年ついに社長代理に上りつめた。

たま自身に出世欲はみられないが、業績アップへの貢献度は社内随一で異例のスピード出世も当然か!?

■「招き猫」の効果も

たま人気は、会社にはもちろん和歌山にも多大な経済効果をもたらした。

関西大大学院の宮本勝浩教授は、たまの駅長就任後1年間の経済波及効果を11億円と試算した。貴志川線の年間利用者は前年の約192万人から約5万5千人も増え、写真集や関連商品の波及効果も約2700万円と算定。隣接する和歌山市の観光客増にも貢献した。

その後も年間利用者は増加し、現在は218万人前後で推移しているうえ、関連グッズの売り上げも伸びており、年間11億円を上回る経済波及効果があるとみる。

赤字ローカル線で廃線が検討された貴志川線自体も大幅に赤字を減らし、黒字運営まであと少しのところにきた。和歌山電鉄の担当者は「たま駅長就任以前は、毎年5%ずつ利用者が減少していた。増えているだけで奇跡です」と喜ぶ。

■たまはマイペース

人気、実力ともにナンバーワンのたまだが、過酷な“ノルマ”が課せられているわけではなく、仕事ぶりはいたってのんびりだ。

広さ約1・8平方メートルの「駅長室」には、専用トイレも付いている。普段のたまは制帽も制服も身につけず、この駅長室で寝そべりながら利用客を見守るのが日課だ。勤務時間は午前9時から午後5時までで、休日もきちんと設けられている。気になる休日の過ごし方は「プライベートなので秘密です」(同社担当者)と、ベールに包まれている。

一方、ファンも駅長室前ではフラッシュを控えて撮影するなど、たま駅長に配慮する姿勢が随所でみられる。利用客の男性は「執務にあたらなくても、いてくれるだけでうれしい。そんな存在です」と話す。

■海外メディアも注目

同社スタッフやファンの温かなまなざしや思いやりは、海外からの観光客やメディアからも注目を集めている。

24年11月には、テレビCMに出演した縁でアメリカンファミリー生命保険会社(アフラック)の米国本社の取材を受けた。アメリカ人スタッフは「猫が駅長を務めているなんて、とてもユニーク。たまは、この駅に幸福をもたらせていると思う。本社やアメリカの顧客も関心を持ってくれるはず」と笑顔を見せた。

ローカル線の小さな駅まで遠路はるばる足を運ぶ外国人観光客も多い。社長代理の発表があった日にも、外国人観光客の姿が目についた。盛んにたまの写真を撮っていた一人は、オーストラリアからの旅行客。「日本全国を旅する中で、観光ガイドを見てぜひここに来たいと思った」と流暢(りゅうちょう)な日本語でたまへの熱い思いを語り、「猫が駅長なんて、オーストラリアでは聞いたことがない。のんびりしている姿に癒されました。日本人の懐の深さを感じます」と感慨深げ。たまは“友好親善大使”でもある。

■高齢も体調は絶好調

国内外から人気を集めるたまも13歳で、人間でたとえると70歳近い。

同社によると、毛並みは良く、エサもよく食べ、体調は「すこぶる健康」といい、「引退」という言葉は縁遠そうだ。むしろ社長代理としての活躍とともに、昨年1月から直属の部下となった伊太祈曽(いだきそ)駅(和歌山市)のニタマ駅長の“指導”にも期待がかかる。

ただ無理は禁物だけに、1月の記念式典で小嶋社長は「たまに負担はかけられない。社長業は任せて」と強調。当のたまは、いつもの調子で「にゃあ」…。これからも駅長室で寝そべりながら、利用客を見守っていく。

http://news.goo.ne.jp/article/sankei/life/snk20130120513.html

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