[ カテゴリー:医療, 社会 ]

「ダウン症候群」どの夫婦にも起こる可能性 支える社会に…

「母体血中の胎児情報がトリソミー以外のDNA情報に広がる日が来る。どんなDNAの人なら生まれてきていいのか、という問いを立ててください」

11月13日、日本産科婦人科学会の公開シンポジウムで、日本ダウン症協会の玉井邦夫理事長は訴えた。「ダウン症に関するさまざまな知識が、まだまだ世の中に届いていません」

母親の年齢が上がれば、染色体異常の赤ちゃんが生まれる確率は高くなる。だが、もともと生まれてくる赤ちゃんは誰でも先天異常の可能性がある。生後間もなく分かるような先天異常は出生児の約2%。そのうち、染色体異常は約5%にすぎないという。

◆ゆっくり発達

ダウン症候群は1866年、イギリスのダウン医師が臨床例を報告したことで、その名前が付いた。一般的に21番目の染色体が3本あることで起こる。

東京逓信病院の小野正恵小児科部長は「ダウン症候群は生まれてくる染色体異常の中では頻度が高い」と指摘する。どの夫婦にも起こる可能性がある先天異常だ。近年の高齢出産の増加に伴い、現在は600人に1人程度と推定される。

筋肉の緊張が弱く運動発達がゆっくりで、歩き始めは通常より平均1年程度遅れる。小柄で顔立ちに特徴があり、目尻はつり気味。小野部長は「もちろん、ご両親にもよく似ていますよ」と話す。

心臓の合併症を持つことが多く、消化管奇形などもある。生命予後は合併症の重さに左右されるが、「最近は心臓手術も積極的に行われるようになり、生命予後が良くなっている。合併症がなければ60代の方もいます」(小野部長)。

知的発達はどうか。小野部長は「ゆっくりと成長します。個人差が大きく、うまく話せない子もいれば、大学に進学した子もいます。成人後は身の回りのことができ、簡単な作業ならできる人も多いです」。生活習慣病や認知症の症状が早く出るという報告もあるが、積極的な支援や治療がされている。得意な能力を伸ばして活躍する例もある。今年のNHK大河ドラマ「平清盛」の題字を書いた書家、金澤翔子さん(27)はダウン症候群だ。

◆検査をどう使うか

障害を持つ子供を育てるという決断は、社会や福祉制度の充実の有無に左右される側面が大きい。小野部長は「親だけで子供の一生の面倒を見ることはできない。完璧な人間はいないし、ましてや障害を持った子供が生まれたら、社会が支えていくのは当然だ」と指摘する。

治療のできない先天異常が分かる出生前検査は、障害者の排除につながるという懸念があり、国内では長い間、倫理的影響を危惧し、積極的な導入が控えられてきた。

一方で、欧米では、出生前検査は希望する妊婦が状況に応じて選択できる国も多い。技術の進歩で、出生前に分かる病気や障害は増えていくだろう。

国立成育医療研究センター(東京都世田谷区)の左合治彦周産期センター長は「医療技術として確立されている以上、適応条件を満たした出生前検査を希望する妊婦がいたら断ることができるのか。検査をどう使っていくか、社会として議論していくことが必要だ」と話している。(油原聡子が担当しました)

■障害受け入れる準備期間に

出生前診断をめぐり、ダウン症の当事者や家族は複雑な思いを抱えている。

3人の子供の母、原香織さん(34)=東京都渋谷区=は、長女の未来美(みくみ)ちゃん(8)がダウン症候群だ。妊娠7カ月でダウン症候群だと分かったが、「障害を受け入れる準備期間になって良かった」と話す。しかし、未来美ちゃんの弟や妹の出産では出生前診断を受けなかった。

「障害を持って生まれてもこんなにかわいいんだ、と未来美を育てて分かりました。次に生まれてくる子供に何かあったとしても全部受け止めたいと思った」

未来美ちゃんは特に重い合併症もなく、元気に小学校の特別支援学級に通っている。原さんの夫や両親など家族の協力も得られている。原さんは「もし、未来美の知的障害や合併症が重かったり、家族関係が今とは違ったものだったら出生前診断を受けていたかもしれない」と漏らす。

一方、日本ダウン症協会は、検査前の事前説明の充実や、検査が一般化しないよう求めた要望書を日本産科婦人科学会に提出。「障害の有無やその程度と本人および家族の幸・不幸は本質的には関連がない」と訴えている。

http://news.goo.ne.jp/article/sankei/life/medical/snk20121217599.html

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