市場に出すことのできる食品に含まれる放射性セシウムの基準値上限が1キログラム当たり500ベクレルから100ベクレルに厳格化されてから、すでに8カ月が過ぎた。これまでの検査では、新基準値を超えた食品は全体の1%程度しかなかった。しかし、水産物や原木しいたけなど一部の食品では基準値超えが続いているほか、安全性が確認されても風評被害にさらされるケースは後を絶たず、生産者らにとって先の見えない状態が続いている。(三宅陽子)
■基準値超の産地は…
「状況は悪くなる一方。出荷がゼロとなる日も近いかもしれない…」
茨城県などの原木シイタケ生産農家らでつくる「東日本原木しいたけ協議会」の高橋恭嗣事務局長(54)は、深いため息をつく。業界では、シイタケを栽培する原木の汚染が深刻化。一部地域で原木を使ったシイタケの基準値超えが後を絶たない。
高橋さんは今年、検査の結果、保有する原木の約4割を処分。新たに西日本などから調達を試みている。ただ、例年なら1本当たり200円ほどの原木が、550円に高騰しているという。「運搬費などがプラスされれば、経営は成り立たない」と頭を抱える。
厚生労働省によると、新基準値が導入された4月から11月末に自治体などで実施された食品検査は17万4506件。このうち基準値を超えたのは1844件と全体の1%程度で、「各地で農地除染が進み、汚染の広がりが限られてきている」(監視安全課)という。
影響が色濃く残るのは、水産物や原木シイタケなどキノコ類、野生動物の肉などだ。特に水産物は基準値超えの食品の約半数を占め、ヒラメ、マダラといった底魚やイワナなどの川魚に集中している。
「海底は放射性セシウムが蓄積された状態。底魚は体内に取り込みやすい環境にさらされている」と水産庁の担当者は説明する。川魚は落ち葉などを通じて放射性セシウムを摂取した可能性がある。
■「不検出」なのに…
安全性が確認されても、消費者の信頼が戻らないケースも少なくない。水産物では現在、スズキやイシガレイなど7魚種の出荷停止を国から指示されている茨城県。国の基準より厳しい50ベクレルを超えた魚種について漁業者らが出荷を自粛する独自基準も設けて安全性をPRするが、風評被害は深刻だ。
大津漁協(茨城県北茨城市)では、今夏からシラス漁が始まった。検査では大半が不検出だが、消費者の評価が厳しい中で採算のめどが立たず、本格操業に踏み切ることができずにいる。「特に被災地から遠い県のシラスと並べられると売れない」(担当者)。今年は週1回の試験操業という形で漁を続けた。「どうPRすれば、安全だと納得してもらえるのか…」。出口の見えない答えに、漁業関係者は戸惑いの色を隠せない。
http://news.goo.ne.jp/article/sankei/life/snk20121215536.html