■空洞化、国民負担解決の道筋みえず
東京電力柏崎刈羽原発のある新潟県柏崎市。明治末から昭和初期にかけての最盛期には国産石油産出量の半分を占めた「西山油田」があり、精製などの関連業界で栄えた。日本石油(現JX日鉱日石エネルギー)の創業の地としても知られ、エネルギーが街の経済を支えてきた。
だが、昨年3月の福島第1原発事故などの影響で今年3月までに全基が定期検査で停止。東電によると、原発構内で働く協力企業の作業員は、全基停止前の3月1日時点の5702人に比べ約4割減り、今月3日時点で3504人まで落ち込んだ。
柏崎商工会議所が7月に会員企業に実施した調査では、回答企業の4割超の306社が原発関連業者との取引企業で、そのうち約65%にあたる200社が取引の減少を訴えた。地元商店街の買い物客が減り、原発停止の影響はじわりと広がっている。
地元住民にも原発の安全性への不安は簡単には消えないが、先月18日に実施された柏崎市長選で3選を果たした会田洋市長は柏崎刈羽原発の再稼働について、「安全性確保を大前提」に容認の姿勢を示した。同会議所の西川正男会頭は「原発反対の立場も分かるが、立地自治体への配慮はないのか。産業への影響も含め幅広い議論をしてほしい」と訴える。
◆続く電気料金値上げ
全国50基の原発のうち、事故後に再稼働したのは関西電力大飯原発3、4号機(福井県おおい町)のみ。原子力規制委員会は来年7月までに新安全基準をつくり、これに沿って安全性が確認された原発が再稼働の対象になる。原発の街の住民は「そのとき」をじっと待っている。
安価で安定供給のできる原発に頼ってきた電力会社にとって、長期間の運転停止は収益を大きく圧迫している。電力10社の2012年9月期中間決算は原発に代わる火力発電の燃料費負担が膨らみ、北陸と沖縄を除く8電力が最終赤字を計上した。
政府の試算では、原発停止による今年度の燃料費負担増は、沖縄を除く9社で3兆2000億円に上る。10月24日に開かれた今冬の電力需給を検証する政府の委員会でも、「現状が続けば、2年後には債務超過になる電力会社が出てくる。その会社が国の電力供給を担う現実をどう打開するのか」(阿部修平委員)との懸念が示された。
財務改善に向け、9月に家庭用電気料金値上げを実施した東電に続き、11月末には関西、九州電力が値上げ申請に踏み切った。東北、四国の両電力も値上げを表明しており、全国に広がる見通しだ。ただ、東電、関電、九電とも来年度の原発再稼働を前提としており、再稼働できなければ追加値上げを迫られそうだ。工場などが海外に移転し、国内の雇用が失われる産業空洞化が現実味を帯びる。
◆具体性に欠ける公約
原発事故後初めての衆院選では「脱原発」を掲げる政党が花盛りだが、時期は「即時」から「2030年代」までさまざま。一方で、自民党は「10年以内に将来の電源構成のベストミックスを確立する」として原発の将来的な活用に含みを残す。どちらにしても、産業空洞化や電気料金の値上げなど国民の負担をどう解決するのか、各党の公約からはその道筋はみえない。
各党がほぼ一致するのは太陽光や風力など再生可能エネルギーの普及加速だが、坂田一郎東大教授は「再生エネの割高なコストなどをきちんと説明していないし、供給の不安定性を解消しなければ基幹電源にはなりにくい」と指摘する。理念が先行して現実を見ていない政策になってはいないか。=おわり
http://news.goo.ne.jp/article/businessi/region/fbi20121214002.html