◇地域の医療機関少なく 患者への誤解、解雇や差別悩み
エイズ患者が最初に報告されてから30年が過ぎた。エイズはかつて不治の病とされていたが、新薬の開発によりコントロール可能な慢性疾患へと変化してきた。治療は日々進化しているが、社会的な理解はなかなか進まない。12月1日の「世界エイズデー」を前に、治療、患者の置かれている現状をリポートする。【小川節子、写真も】
1981年、米国の男性同性愛者5人に、世界初のエイズ症例が見つかった。日本は85年から統計を取り始め、2011年は新たに1529人の感染者が報告された。うちHIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染者は1056人。免疫低下によって肺炎などの合併症が発症したエイズ患者は473人で、全体の31%を占める。がん・感染症センター都立駒込病院(東京都文京区)の感染症科医長、今村顕史さんは「感染者は08年をピークに減っているがエイズ患者は増え続けている」と話す。
96年に開発された「HAART」(ハート)療法(抗HIV薬を多剤併用する治療。現在はARTと呼ばれる)によって、死亡率が大幅に低下し、予後も改善された。ウイルスを消すことはできないが、血液中のウイルスを計測できないほど減らすことが可能になり、エイズ発症前の早期に治療を始めれば発症はほとんどない。「現在は長期医療が必要な慢性疾患とみなされるようになってきました」
一方で、新たに問題となっているのが患者の高齢化と療養の長期化だ。同院は今夏、HIV感染者672人を調査した。平均年齢は49歳で、60歳以上が23%を占め、通院が10年以上の人は39%に上った。歯科、眼科など複数の科の受診が必要になってきている。「HIV感染者はエイズ拠点病院が診察してきたが、予後の改善に伴い地域で担う医療も必要」と指摘する。東京では、ネットワーク作りや専門家の研修、育成を行っているが、全国的には進んでいない。拠点病院に1~2時間かけ通院する患者は多い。「知識不足で、治療を断る医療機関も少なくない。こうした現状を変えることが大切」と今村さんは強調する。
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NPO法人「ぷれいす東京」(東京都新宿区)はエイズの電話相談や直接支援などを行っている。スタッフの佐藤さんは15年前、結核で入院した。当時38歳。HIV感染による発症だった。10年前から服薬を始め、現在、ウイルスはほとんど検出されない状態だが、3年前から人工透析を週3日受けている。この間、糖尿病や目の治療でさまざまな医療機関を受診。「家の近くで治療を受けたくても、エイズ患者を受け入れてくれるところは少ない。治療を拒否されたり、転院を促されたりすることも少なくない」と話す。
病名を家族や知人に告げる時も不安だった。「幸いパートナー、兄弟は受け入れてくれました。ただ、親しい友人にはなかなか言い出せなかった」。親に拒絶され生きる力を失ったり、解雇や就職差別に悩んだりする人は多いという。
NPO代表の生島嗣(ゆずる)さんは「治療の進歩で10年、20年と社会生活を続けながら病気とつき合う時代。しかし、病気を伝えることで周囲にどう思われるのかと不安な人は多い」という。09年、HIV陽性者に行った全国調査では、7割以上が「職場の人に病名が知られることの不安」「病名を隠すことの心の負担」を訴え、9割が「職場」「偏見の低減、啓蒙(けいもう)活動」などの対策が必要と答えた。
「日常生活ではほとんど感染しないのに誤解している人は多い。陽性者の多くはカミングアウトできず、2万人いる感染者の実像が見えず、不安が増幅するという悪循環に陥っている」と指摘する。
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◇日本人の感染率、0.1%未満
国連合同エイズ計画(UNAIDS)の報告によると、11年の世界のHIV感染者数(子どもを含む)は3420万人、南部アフリカが2350万人を占めている。新規の感染者数は250万人、死亡者数は170万人。感染率は世界平均0.8%に対し日本は0.1%未満。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121129-00000000-maiall-soci










