日本海で起きる地震の謎を解明するため、文部科学省が来年度から本格的な調査に乗り出す。太平洋側と比べて遅れていたが、最近の調査で日本海中部地震の断層が見つかるなど新たな成果も出始めた。西日本を含む日本海全域で取り組みを加速し、地震や津波の予測精度向上を目指す。
■大陸プレート衝突
日本列島は地球の表面を覆うプレート(岩板)が4枚もぶつかり合っているため、地震が多発する。太平洋側では海側プレートが陸側プレートの下に沈み込んでおり、その境界部で津波を伴う海溝型の巨大地震が繰り返し起きる。
日本海側でも、主に北陸以北の海底でマグニチュード(M)7級の地震が何度も起きている。1964年に新潟地震(M7・5)、83年に日本海中部地震(M7・7)、93年には北海道南西沖地震(M7・8)が発生し、いずれも津波が沿岸部を襲った。
しかし、日本海側の地震や津波のメカニズムは未解明の部分が多い。太平洋側と違って明確なプレート境界が存在しないことに加え、地震の頻度や切迫性が低いとして調査が先送りされてきたからだ。
日本海では北海道沖から新潟県沖にかけて、大地震の震源域が南北に帯状に伸びている。日本海東縁の「ひずみ集中帯」と呼ばれる場所だ。ここは東日本を乗せた北米プレートと、西日本を覆うユーラシアプレートの境界付近に位置しており、2つの巨大な大陸プレートが衝突して地震を起こすと考えられている。
■海底断層を発見
日本海東縁の地震活動は日本海の形成史と密接な関係がある。日本列島は約3千万年前に大陸から離れて東へ移動を開始。大陸との間にできた溝が徐々に拡大し、約1500万年前に日本海が生まれた。海底は東西に引っ張られたため、多くの断層が筋状にできた。
約300万年前になると、西進する太平洋プレートの影響で押し戻されるようになり、海底は逆に東西に圧縮され、ひずみが蓄積。これを解消するため、日本海の形成期にできた古い断層が動いて地震が起き始めた。海底に刻まれた“古傷”が再発した格好だ。
その実態を探るため、文科省のプロジェクトチームは平成20年度から日本海東縁のひずみ集中帯を調査。謎だった地殻構造が少しずつ明らかになってきた。
海洋研究開発機構と東大地震研究所は、人工地震波を使って青森県沖から秋田県沖の海底を探査し、日本海中部地震を起こしたとみられる断層を初めて発見した。東へ傾斜する長さ100キロ以上の逆断層で、南の延長線上は約50キロにわたって割れ残っている可能性があることも判明した。
また新潟県沖でも、佐渡海嶺と呼ばれる海底山脈付近で多数の活断層とみられる断層が見つかった。
地殻構造を分析したところ、青森・秋田県沖は海底が陸側の下に沈み込むような形状だったのに対し、新潟県沖は海底と陸側がぶつかり合っていた。南北の違いについて、チームの長谷川昭東北大名誉教授(地震学)は「プレート境界としては未熟なため、南側では沈み込んでいないのだろう」と話す。
一方、東日本大震災以降、東日本に掛かる力は従来の圧縮から引っ張りに転じ、その影響は日本海側にも及んでいる。今後の地震活動について東大地震研の佐藤比呂志教授(構造地質学)は「日本列島全体に掛かる力を考えていくことが重要だ」と指摘する。
■福井県沖から調査
政府の地震調査委員会は日本海東縁で起きる地震の長期評価を行い、北海道沖から新潟県沖までの発生確率などを公表しているが、歴史記録が乏しいため予測の空白域がある。また西日本の日本海は、まったく予測されていない。本蔵義守委員長は「評価を見直すにしても現時点ではデータ不足で難しい」と話す。
想定外の巨大地震に見舞われた大震災の教訓を踏まえ、文科省は日本海側で地震・津波調査を急ぐ必要があると判断し、来年度から新たなプロジェクトを立ち上げる。多くの原発が立地し緊急性が高い福井県沖を皮切りに、手付かずだった海域や沿岸を8年計画で順次調査する。
人工地震波などを使って地殻やプレートの構造を探査し、断層の傾斜角などを基に地震や津波の発生モデルを作成。揺れの強さや波高を予測し、自治体の被害想定や防災に役立てる。日本海側の地震はこれまで明確な評価基準がなかったが、国として統一的な見解を示したい考えだ。
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